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海賊と死ねない男

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どこまでお話しましたか。
そうそう、海賊の六郎がすり寄ってきた船を襲って、乗っていた者たちを次々と海に放り込んだところまでで――。

六郎と手下たちは櫓や櫂を手に手に、僧の頭を殴りつけました。
僧は特に抵抗もしないまま、水の中へ沈んでいきますが。
そのたびにまた、すーっと波も立てずに浮かび上がってくる。

六郎は不気味に思って、力の限りに僧を叩きつけました。
ト、その時、異様な者の姿が六郎の目に入ってきた。

水の中、僧の両脇と胸のあたりに、合わせて三人の童子の姿。
貴人の子弟のように気品ある童です。
それが僧とともに浮き沈みしているのがちらっと見えた。

よく見るト、それらが僧を支えて、水面に浮かび上がらせているのでございました。

「待て、叩くのをやめろ」

六郎は手下たちに向かって叫びました。
手下たちは、不意の命令に戸惑いながらも、手を止めた。

「あの餓鬼らは何者だ」

驚いて六郎が尋ねても、手下たちはぽかんとしている。

「どこに餓鬼がいるんです」
「いるじゃないか。ほら、その脇や胸のあたりに――。あッ」

ト、六郎が叫びましたのは。
童子たちの姿が尋常でなかったからで。

一人は片腕がない。
一人は片足がない。
一人は片目が潰れている。

一斉にこちらを見て、あどけない笑みを浮かべている。

六郎はみずから棹を僧に差し伸べまして。

「上がってこい」

ト、促した。

手下たちが不満を言うのももはや耳に入りません。
僧が船に上がってくるや、身体を探ってみるが、童子はすでに姿を消している。

「さっきの童子たちは何者だ」
「先ほどあなたが沈めた国司の子どもたちです」
「なにッ。あの男、国司だったか。して、あの童子らは何ゆえに――」
「私を死なせまいと、責めるのです」
「死なせまいと責めるだと」

六郎が妙に思って尋ねますト。
若い僧はぽつりぽつりと語り始めました。

僧は周防国のとある寺に幼い頃から預けられておりましたが。
親の期待とは裏腹に、仏道修行に嫌気が差し。
ついに寺を飛び出して、僧形の盗賊となりはてました。

小盗みを繰り返しているうちに、徐々に大胆になりまして。
やがて、貴人の屋敷に忍びこむようにもなる。
手下を抱え、盗んだ品を船で運び出すようにもなる。
ただし、そこは元が僧侶ですから殺生は決していたしません。

それが、このたび、国司の屋敷に忍び込んだ時。
誤って、子どもたちの寝間に入り込んでしまい。
幼な子たちは気づいて、泣く、叫ぶ、悲鳴を上げる。

「静かにしろッ」

ト、脅せば脅すほど、怖がって声を上げます。
業を煮やした僧は、刀を抜いて斬りかかった。
逃げる童子たちの背後から。

一人は片腕を切り落とされ。
一人は片足を切り落とされ。
一人は片目を突かれて潰される。

後から来た手下が、とどめを刺しました。

さて、僧と手下たちは国司と女房らを人質に取りまして。
財宝を密かに運び出し、船に積み込む。
京を目指して出航しますト、そこで異変が起きました。

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三人の童子が、次から次へと眼前に現れまして。
僧の視界を遮ります。

それもただ現れるのではない。
あどけない笑みが目の前いっぱいに広がっている。
入れ替わり、立ちかわり。
太郎、次郎、三郎ト――。

「やめろ、やめろ、やめろ」

するト、ぱっと童子らは突然姿を消しました。
気づくと、手下たちが一人もいない。

「あいつらはどうした」
「あなたのように、叫びながら海に飛び込んでいきましたよ」

国司も震えながら、僧を見て言う。

その後も、童子たちは容赦なく眼前に現れては笑う。
僧もたまらなくなりまして。
ついに船から逃げるように、夢中で海に飛び込んだ。

ト――。

沈んだ体が再び浮かび上がっていく。
見るト、三人の童子が自分の体を掴んでいます。

片腕のない太郎。
片足のない次郎。
片目の潰れた三郎。

三人が僧の体を引き摺るようにして、水面に引き揚げていった。

それが何度も繰り返されるうちに。
僧はどうにかなってしまいそうになりましたが。
この先も、自分だけは死なせてもらえないのかト。
ふと不安が襲って、恐怖した。

「だから言ったのです。必ず後悔しますぞ、と」

話を聞いていた海賊の六郎は、その一言に青ざめた。

その後、追ってきた追捕使(ついぶし)と交戦しながら、京へなんとか辿り着きましたが。
六郎は、死なせた国司や女房、下人らのことが、急に頭から離れなくまして。
悪事から足を洗うことを決め、出家したのだと申します。

――この話を聞いていた客人が、老僧にふと尋ねました。

「その若い僧は、その後どうなったのです」
「追捕使との交戦中に、死にました」
「おや、死ねたのですね」
「片腕、片足、片目を失いましてな。それでようやく身を投げて死んだのです」
「なるほど。童子らもやっと浮かばれたわけでございますな」
「いや――」

ト、老僧はつぶっていた目を初めて開けますト。

「ここに、ほら。国司や女房、下人らと一緒に、笑っているではありませんか」

ト疲れたように言って、再び目を閉じました。

出家して、九十を超えても、いまだ死なせてもらえないという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(「宇治拾遺物語」巻十『海賊発心出家の事』ヨリ)

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