悲哀一覧

虚舟(うつろぶね)

遠い海の向こうに行ってしまった亡き母の幻影。あるうららかな春の日に沖から流れてきたものは、異国の若い女をのせた舟だった。未だ解明されていない江戸の実録ミステリー。

しし鍋の晩に弔いが出る

山裾の小屋に宿を借りた旅の僧。主人は老いた猟師で、仔猪しか獲れなかったと肩を落とす。その目に宿る一抹の狂気、そして聞こえ念仏の声――。塚の中から飛び出したのは人か、それとも畜生か。

死霊解脱 累ヶ淵(二)累と助

怨敵与右衛門の娘、菊に憑依した累の亡魂。人々の念仏供養によって無事成仏したかに思われたが――。六十年の歳月を経て、秘められた因果が明らかになる。江戸怪談黎明期の大傑作。

手っ切りあねさま

継母に憎まれ、手首を斬り落とされた娘サト。あてどない旅の果てに出会ったのは、許嫁の男だった。ところが、二人の束の間の幸福に、継母がまたもや割って入り――。すれ違いと誤解が生む悲劇。

人知れず美しい婿

箱入り娘の前に現れた、天下に二人とないという旅の美男子。長者は娘の婿に是非と要請するが、美男子はいつまでも覆面を外さない。やがて、怨霊の登場とともに、美男子の素性が知れ――。

今戸五人切 お藤松五郎

互いに想い合いつつも、口に出せずにいた兄妹分の松五郎とお藤。ようやく結ばれた二人は、恋の手違いに巻き込まれ――。運命の悪戯が人を狂気に走らせる。負い目ある男ゆえの悲哀と悲運。

八百屋お七

火事に焼け出されて、檀那寺に避難したお七は、美童を見初め――。後に歌舞伎、文楽、落語など多くの芸能に扱われる、悲哀と狂気に満ちた少女の所業。井原西鶴「好色五人女」中の一遍より。

阿闍世王と釈尊

摩竭陀国の阿闍世王子は、奸物提婆達多に父王を殺して王位を奪うよう唆される。拒否する王子に、提婆達多が吹き込んだ出生の秘密とは――。手塚治虫「ブッダ」でも有名な逸話より。

変成男子と男やもめ

近江の宿場町に現れた美しい僧。一晩明けると、居住まいから声音まですっかり女らしくなっていた。にわかに興味をいだいた主人は、夜、僧の寝床を密かに訪れるが――。「奇異雑談集」中の一編より。