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群れなす呪い人形

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こんな話がございます。
唐の国の話でございます。

玄宗皇帝の治世のころ。
楚丘という地方の県令に、蘇丕(そひ)という人物がございました。
蘇丕には娘がおり、李という男に嫁いでおりましたが。
嫁に行った時にはすでに、夫と下女が怪しい仲になっておりまして。
そのため、夫婦とは名ばかり、また下女との間も上手くいかない。

下女の方では、自分の方が先にあるじの寵愛を受けていた、と考えておりますから。
むしろ、正妻の方を泥棒猫のように蔑み、憎んでおります。
とうとう怒りと妬みに耐えられなくなり、妖術士を呼び寄せた。

「あの女を懲らしめてやりたいのでございます」
「それでは、こうなさい」

ト、妖術士に施術をしてもらった後、指示に従い、まずは呪符を塵捨場に埋めました。
さらに、人間の膝丈ほどの人形を七体用意いたしまして。
一体、一体に晴れ着を着せる。
土塀の穴の空いたところに埋めると、上から泥で蓋をしました。

誰もそのことに気づいた者はない。

それから月日が流れまして。
主人の李が死に、後を追うように下女も死ぬ。
呪われるはずだった蘇丕の娘が、むしろピンピンとしております。

ト申しますと、何やら「人を呪わば穴二つ」という言葉が思い起こされるようですが。
これは普通、怨敵も自分も墓に入るという警句でございます。
ところが、この下女の場合は、自分と愛するご主人が墓に入る始末となった。
そこが妙ではございます。

さて、蘇丕の娘ははからずも未亡人となってしまい。
また、恋敵とはいえ、長らく使っていた下女も死んでしまいましたので。
広い屋敷に、わずかな使用人を置いて、寂しく住まっておりましたが。
ひとまず、つつがなく過ごしてはおりました。




それからまた、月日が経ちまして。
夫の死から四、五年が過ぎた頃のことでございます。
ある晩、蘇丕の娘が一人で寝ておりますト。
屋敷の中を何者かが歩きまわる音がする。

泥棒でも入ったのだろうかと、怯えながら様子をうかがいに寝間を出る。

ト、次々と怪しい人影が現れます。
よく見ると、それも二人や三人ではない――どころか。
膝丈ほどの娘姿の人形です。
一様に晴れ着を着て群れをなしている。

ギャッと思わず悲鳴を上げました。

それから蘇丕の娘は、恐怖のあまりに煩い付いてしまいましたが。
人形も人形で容赦をしない。
夜ごと、どこからともなく一斉に現れる。
ただ屋敷中を歩きまわるだけですが、それが余計に不気味です。

夜ごとに脅かされるものですから。
病はますます重くなる一方で。
知らせを聞いた父の蘇丕が、慌てて娘の婚家に駆けつけます。

――チョット、一息つきまして。

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コメント

  1. 深川八幡太郎 より:

    非常に煙に巻かれるような結末でまさに不思議な話の骨頂。
    ただ九年後の呪いの意味がどうにも腑に落ちませんな。当時の彼の地では九年で夫婦関係は一つの区切りを迎えるのでしょうか?
    野暮は承知でその辺の種明かしなどがあればうれしい限りです。

    • onboumaru より:

      原文は「其後九年当成(その後九年にしてまさになるべし)」で、「九年後に必ずや呪いをなすだろう」というような意味でございます。
      これは呪いの成就に相当な時間がかかる代わりに、それ相応の効力を保証している文言と思われます。
      相応の効力――たとえ呪い主がすでにこの世にいなくとも、一度掛けられた呪いは必ず完遂するという、人形の機械的な意志でございましょうナ。

      • 深川八幡太郎 より:

        なるほどなるほど。
        その想いの深さやら重さやら暗さやらを「九年」で表したというわけですな。
        まさに傀儡の気味の悪さを思い知りました。ありがとうございます。