どこまでお話しましたか。
そうそう、花嫁行列の駕篭から、同じ姿形の新婦がふたり降り立ったところまでで――。
新郎ひとりと新婦ふたりが。
少し表情をこわばらせながら。
寝間へと入って行きました。
扉が閉まり、ここから先は、若い夫婦が初めて打ち解けあう時――。
ト、普通なら、そうなるところでございますが。
やがて聞こえてきましたのは。
新郎と新婦の、おぞましいような叫び声。
一家の者が、何事かト寝間に駆けつける。
扉をこじ開けると、そこには凄惨な光景が広がっていた。
新郎は寝台から投げ飛ばされたように倒れこんでいる。
新婦の一方は、寝台の上に伏しておりました。
二人の周囲に、鮮血が滴っている。
「もう一人はどこへ行った」
父親が叫ぶ。
一同があたりを見回します。
ト、天井の梁の上に気配がする。
見上げるト、そこに大きな怪鳥が一羽止まっていた。
灰がかった黒い鳥でございます。
くちばしは鈎のように曲がっている。
大きな爪は雪のように白く光っている。
やはり、ひとりは化け物であったかト。
一同は大騒ぎをして、これを捕らえようといたしますが。
何分、梁の上にいるものですから、容易には届きません。
弓や矛をもって脅したり、突っついたりしておりますうちに。
怪鳥は青く鈍い光を眼から発し。
大きな翼をばさばさと打ち扇ぎ。
室内を二、三周、見下ろすように巡りますト。
悠々と窓から飛び去って行きました。
人々はしばらく呆気にとられておりましたが。
新郎と新婦が呻き声を上げていることに気が付きまして。
慌ててふたりを介抱いたしました。
「寝間へ入りはしましたが、ひとりとふたりでございますから、とりあえず向かい合っておりましたら、新婦のひとりが突然手を上げて、私の顔をピシっと打ったのでございます」
「私もそれを見て驚きまして、どうしましたか、と覗きこんだ途端、同じように顔を打たれてしまいました」
新郎と新婦はそう話しました。
不意に顔を打たれた刹那、激しい痛みに襲われて、気を失ってしまったのだト申します。
ふたりの顔からは両のまなこがえぐり取られておりました。
それでも命に別状のなかったことだけは、不幸中の幸いで。
ふたりは盲目同士の夫婦として、支えあいながら仲睦まじく暮らしました。
その後、件の怪鳥を見たものはございません。
古い塚など、幾体もの死骸が埋まっているようなところでは。
長らく凝固した太陰の気が、羅刹鳥(らせつちょう)と呼ばれる鳥と化し。
人の前に現れて、好んで目玉を食うのだという。
そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。
(清代ノ志怪小説「子不語」巻二『羅刹鳥』ヨリ)