こんな話がございます。
江州は枝村ト申す、東山道の宿場町に。
ある日、一人の美僧が現れまして。
一軒の宿屋の戸を叩きましたが。
年は二十歳ばかりにして。
見目形は尼僧かと見紛うほどで。
そのくせ、声や立ち居振る舞いは。
やはり男でございます。
その晩は大雨が降りまして。
翌日もまだ晴れません。
それ故に、この若い僧は。
昼間も居続けとなりましたが。
夜が明けてよりこの方。
この美僧の様子がどうもおかしい。
姿形はもとより優美ではございましたが。
居住まいから声音まで、すっかり女らしくなっている。
宿の亭主は、何やら怪しく思いまして。
「御坊はどちらよりお出でですかな」
ト、それとなく声をかけてみた。
「わたくしは越後の者でございますが、丹波の大野原の師匠の元にて数年修行を積みまして、これからまた越後へ戻るところでございます」
美僧は伏し目がちにそう答えました。
亭主は、丹波の事情はよく知りませんので。
「はあ、さようでございますか」
ト、適当に返事をいたしましたが。
見れば見るほど、奇妙でございます。
あまり気にかかるものですから、ついに正直に、
「御坊は僧侶でおわしますかな、比丘尼でおわしますかな」
ト、尋ねてみました。
するト、美僧は顔を赤らめまして。
「比丘尼にございます」
消え入るような声で、そう答えました。
この時はそれでやり取りも終わりましたが。
女と知るや、亭主の興味がむくむくト頭をもたげまして。
その夜も更けかかった頃に、比丘尼の部屋をそっと訪ねていく。
客の部屋に夜這いをかけるという、けしからぬ宿屋があったもので。
そっと襖を開け、暗い中を手探りで、比丘尼の寝床へ這っていきます。
ついに探し当て、無言で尼僧を抱き寄せますト。
初めこそ小さく声を上げて、抗う姿勢を見せましたが。
亭主が無理強いしておりますト、そのうちに抵抗をやめました。
ト、ここまではよくあるはなしでございましょう。
――チョット、一息つきまして。