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魔物の棲む家

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どこまでお話しましたか。
そうそう、憤怒の形相で現れた父が、息子二人に突如襲い掛かってくるところまでで――。

二人の息子から話を聞いた母親は。
更に怪訝そうな顔を浮かべます。

「お前たちは一体、何を言っているんだい。父さんなら今日は一日中、庭の手入れをしていましたよ。私も一緒でしたから、間違いありません」

兄弟は顔を見合わせまして。
いや、そんなことはないト、母に反論する。

「それなら、父さんを呼んでこようじゃありませんか」

母の提案に、息子二人はゾッとして反対しましたが。
騒ぎを聞きつけて、父の方から三人の前に姿を現した。

「さっきから何を言い合いしているんだい」

その姿はいつもの穏やかな父そのものでございます。

兄弟二人はぽかんとして、父を眺めておりましたが。
段々にこれが正気の父だと知れましたので。
昨晩からの事のいきさつを語って聞かせますト。

「待て、待て。俺は夕べ、お前の部屋になど行っていないぞ」

ト、父が長男の言い分をまず否定した。

「そもそも、小二が宋さんの家に出入りしているなど、今まで一度も聞いたことがない」

小二はそれで少し溜飲を下げて、

「それでは、さっき畑に来たのは」

ト、尋ねますト。
父も少し考えまして。

「どうやら、この家には妖物が取り憑いているのかも知れぬ」

ト、腕組みをして深刻そうに答えました。

「こうしよう。俺の大事にしている刀二本を、お前たちに一本ずつ渡す。明日の朝は鍬の代わりにそれを持っていって、妖物がまたやって来たら是非なく斬り殺してしまえ」

翌朝、二人の息子は父から渡された刀を、腰に差して家を出る。

ところが、二人を見送った後、父と母は何だか心配になりまして。

「あなた、あの子たちに何かあったらどうするんです」
「そうだな。心配だ。やはり、俺が行ったほうが良いだろうか」

ナドと相談しているうちに、どんどん不安が募りまして。
父は息子たちを追って、慌てて家を飛び出していった。




一方、息子たちは畑に向かって二人で歩いておりましたが。

「に、兄さん」
「来たな」
「や、やりますか」
「やるしか、な、ないだろう」

ト、二人は震える手で刀を振りかぶり。
手を上げ、声を立てながら走ってくる父の偽物めがけ。
目を瞑り、意を決して斬りかかりますト。

哀れ、妖物ト間違えられた本物の父は。
頭から鮮血を噴き出して、その場で息絶えてしまいました。

「よくやった。それでこそ、俺の倅だ。今日はお祝いだ。豪勢にやろう」

帰宅した二人の息子から報告を受け。
上機嫌で酒をあおる父の横柄な姿に。
小二はあからさまに違和感を抱く。

兄の顔からみるみる血の気が引いていった。

「に、兄さん――」
「――何も言うな」

母も困惑しているのが分かる。
しかし、誰もそのことを明らかに口にはいたしません。

そうして、数年がつつがなく過ぎる。

ある時、親子四人の住む家に、旅の道士が立ち寄りまして。
四人の素晴らしい饗応に、心地よく酔っておりましたが。

厠へ立った小二の背後から。
件の道士が近づいてくる。

「あなた方のお父さんから、ただならぬ妖気を感じます」
「何のことです」
「あれは本当のお父さんではない。妖物です。妖物のなりすましに違いない」

道士は無論、密かに警告したつもりでございます。
まさか、その一言が命取りになるとは思ってもいない。

「どうしました。何をそんなにじっと見つめるのです。何故、腕を握るのです。放してください。あッ――」

背後から何者かが道士に斬りつける。
鮮血が壁に、床にト飛び散った。

「兄さん――」
「何も言うな。妖物でも父さんには違いない」

その後も彼ら家族四人は、つつがなく過ごしたト申します。

得体のしれぬ妖物よりも。
罪の自覚が人を苦しめるという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(六朝期ノ志怪小説「捜神記」巻十八ヨリ)

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