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天竺の僧伽多と鬼ヶ島の女

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こんな話がございます。
これは天竺の話でございます。

遠い外つ国(とつくに)の話ですから、いつのことだかは分かりませんが。
天竺に「僧伽多(そうきゃた)」と申す者がございました。
名を僧伽多と申すのであって、別に僧侶ではございません。
おそらく大商人か船乗り、もしくは国の交易を担う王の臣下だったかと思われます。

さて、僧伽多は五百人の商人を船に乗せますト。
金銀財宝を得るべく、外国の港へ向かっておりました。

ところがその途中、にわかに嵐が吹き始めまして。
さしもの大船もまるで木の葉のよう。
南へ南へと、どんどん吹き流されてしまいました。

やがてたどり着きましたのは、見知らぬ島で。
ひとまずは命が助かったことを喜び合いながら、一同は陸に上がる。
しばらく休んでおりますト、どこからか人の声が聞こえてきた。

振り返るト、女が十人ほど、歌を歌いながら通り過ぎていく。
どことも知れぬ孤島に流れ着き、心細く思っていたところです。
男たちは我先にト、女たちに声を掛けた。

傍目にはさぞ、飢えた獣のように見えたろうと思いますが。
その様子を見ても女たちは怖がる風もございません。
むしろやつれた姿を見て哀れんでいる様子です。
男たちが難破した経緯を説明するト、自分たちの住む家へ案内した。

女たちの居所は、まるで城塞のようなところにありました。
白く高い城壁のようなものに囲まれており、荘重な門に守られております。
壁の内側には家々が軒を並べて建っておりましたが。

よく見るト、男の姿が全く見当たらない。
家の主人はみな、女です。
男たちは極楽浄土にでもやってきたような気分になる。
五百人めいめいが妻を見つけて、それぞれの家に住まいました。

男たちは任務も忘れて、女たちとの愛欲に耽る。
僧伽多もまた、妻を得て仲睦まじく暮らします。
そうして月日は夢のように流れて行きましたが。

妻を愛しく思う一方で、僧伽多にはどうしても気になることがある。
それは妻の昼寝があまりに長いということで。
一旦そんな不審を抱いてしまいますト。
可愛らしい寝顔に、何か底知れぬ闇が隠れているような気がしてなりません。

僧伽多は、はたと目が覚めるような思いがいたしまして。
ある時、密かに城塞の中を探索してみますト。
高い鉄の壁に囲まれた空間がいくつかあることに気がついた。

僧伽多は意を決しまして、そのうちの一つの壁によじ登ってみました。
ト、中を覗いて驚いた。

そこには無数の男たちが閉じ込められている。
ほとんどが痛ましい血染めの死骸、さもなくばすでに白骨と化しています。
中にはまだ息があり、呻き声を上げている者もございましたが。
その中のひとりが、僧伽多に気づいたらしく、声も絶え絶えに申します。

「騙されるな――。あ、あれは――鬼女だぞ」

壁の下に広がる惨状に、僧伽多は思わず目を見張る。

「やはり――。それで、あなたは」
「難破した船乗りだ。うっかり女色に堕ちたばかりに、このざまだ。奴らは女しか産まんぞ。女をどんどん殖やして、男を食いものにするのだ。譬えで言うのではない。これを見ろ」

ト、男は死んだ仲間を指し示す。




「新たに船が漂着すると、元の男たちを食糧にするのだ。恨むわけではないが、俺たちはお前たちが漂着したことで、種馬から食用に回されたのだ。お前たちもいずれそうなるぞ」

僧伽多はそれを聞いて、壁の上でガタガタ震え始めました。

「案ずるな。方法はある。鬼女たちは日に六時間昼寝をするだろう。その間に逃げれば良い」
「それでは、あなたもご一緒に」
「駄目だ。俺はもう足の腱を切られている。とてもその壁は登れまい」

僧伽多は急いで戻ると、女たちが昼寝をしている間に、商人たちを全て浜辺に集めた。

「そんな馬鹿なことがあるものか」
「お前は夢でも見たんだろう」

男たちは信じようとしない。
なんせ愛欲の虜でございます。
しかし、もはや一刻の猶予もございません。
僧伽多は声を荒げていいました。

「夢を見ているのはお前たちのほうだ。食い物にされたい奴はここに残れ。俺はこの島から今すぐ逃げる」

ちょうどその時、遠く町の方から女たちが走ってくるのが見えました。
愛らしい妻たちが、悲しげな顔をして追いすがってきます。
男たちはそれを見て、思わず戻ろうと踵を返す。

ト、女たちの背丈が近づくほどにどんどん大きくなっていきました。
めいめいの妻が徐々に鬼女の正体を露わにしていく。
その様を、男たちは己の目ではっきりと見た。

慌てふためき海に向かって走りだす男たち。
僧伽多は一人落ち着いて、観音浄土に祈りを捧げます。
鬼女たちがその背後に迫ってくる。

その時、水平線の向こうから巨大な白馬が一頭、海を泳いでくるのが見えた。

「助かった。観音菩薩の大慈大悲だ」

男たちは白馬にすがりついて島から逃げる。
鬼女たちが髪を振り乱し、裂けた口を大きく開けて、追いかけてくる。

ところが、この期に及んでもなお、愛欲を断ち切れない愚者がありまして。
愛しい我が妻の面影が忘れられず、つい馬から降りて戻っていった。

たちまち数百の鬼女たちが群がって奪い合いトなる。
こうなると情け容赦もございません。
男の体は千々に引き裂かれてしまいました。

――チョット、一息つきまして。

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