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丑の刻参り 宇佐八幡の鉄輪女

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こんな話がございます。

豊前国の宇佐八幡宮ト申しますト。
日本各地の八幡宮の総本社でございますが。
そこから半里ほど北へ行ったところに墓地がございまして。
そこへ夜な夜な、変化(へんげ)のものが現れるという噂が囁かれておりました。

曰く、頭頂から八方へ火を噴くのである。
曰く、墓地の陰気が満ち満ちて、妖物と化したものである。

ところが、こういった話の常といえばそうでございますが。
噂を聞いた者はあまたおりましても。
実際に自分の目で確かめた者が、出てきて語ることはそうございません。

ある晩、若い衆が数人寄り集まりまして。
常のごとく酒を酌み交わしながら、戯れておりましたが。
その時に、この噂が格好の肴として、座に上がりまして。

「どうだ。これからひとつ、噂の真偽を確かめに行ってみないか」

ト、言い出す者が現れましたが。
こういう時は、言い出しっぺが手を挙げなければならない。
さもなくば、誰も応じはしないものでございます。

ところが、ここにひとりの豪の者がおりまして。

「誰も行かないのか。ならば、俺が行こう。まったく腑抜けどもめ」

ト、他の仲間たちを見下しながら、大胆にも言ってのけた。

「待て。座興で言ったまでではないか。何も真に受けて夜中に墓地へなど行くことはない。まったく、気の短い奴だ」

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言い出しっぺは、慌てて取り繕おうといたしましたが。
豪の者は、その取り繕おうとする態度が気に入らない。

「妖物ごときに恐れをなすくらいなら、初めから口にしないがいい。俺は下らない噂の根を断ち切ってやりたいまでのことだ。世に妖怪変化などと申すのは、みな貴様のような腰抜けが作り出した幻よ。その証しを見せてやるから、待っておれ」

そう言い放ちますト、男は一人で墓地へ向かって行きました。

もともとこの男は、武門の一族に生まれたためでございましょうか。
妖怪、幽霊、鬼、物の怪の類を一切信じません。

そんなものは、臆病風が作り出した幻影だと思っている。
そもそも、この世に斬って捨てられないものなどない。
そう考えているような男です。

「どうせ、墓守か誰かがほっつき回っているのを、見間違えた奴がいたんだろう」

腕組みしながらそう考えているうちに。
いつか暗い森も通り過ぎ。
件の墓地までやってきた。

男は、木陰に潜んで「変化のもの」を待ちました。
辺りはしんと静まり返っています。
妖物はおろか、蟲一匹現れそうな気配もない。

「馬鹿馬鹿しい意地を張ってしまったものだ。墓守すら現れないではないか。さっさと頭から火を噴いてみろ。下らない――」

そう悔やんで、あくびをひとつしたところへ。
遠く、十町ばかり向こうに、ほのかに薄明かりの差すのが見えました。
よく見るト、火の玉らしきものが宙を飛ぶようにして、徐々にこちらへ近づいてくる。

――チョット、一息つきまして。

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