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二度目の妻と嚢中の錐

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どこまでお話しましたか。
そうそう、あまりに才気の傑出した丁欽の妻に、按察使、姚忠粛の態度が変わり始めるところまでで――。

劉義ト申す農民が、ある日訴えを起こしました。
その憤慨たるや、ただ事ではない。

「うちの兄貴は殺されたんだッ」
「兄貴の嫁さんには間男がいるッ」
「俺はちゃんと知ってるんだッ」
「二人で謀ったに違いないッ」
「二人で兄貴を殺したに違いないッ」

ト、泡を飛ばしてまくし立てる。

よくよく聞いておりますト。
劉義には劉成ト申す兄がおりまして。
ある日、その兄が死んでいたト申します。

畑の真ん中で倒れて冷たくなっているのを。
村人たちが見つけたそうで。

さっそく、丁欽がこの事件を吟味することになりまして。
我が朝ならさしづめ、岡っ引きに当たるような手下たちを野に放つ。

そうこうして集めた事情を並べてみるにつけ。
確かに劉義の訴え通り、兄嫁に間男がいるのは事実らしい。

さらに内密に調べを進めていきますト。
やはり、毒婦姦夫が手を下したのは確実と見えました。

ところが、どうにも証拠がない。

死人には、傷痕一つ残っておりません。
毒殺されたのかと思えば、その形跡もやはりございません。

丁欽は吟味に行き詰まってしまいまして。
いつものように、さっそく妻の顔を覗き込んだ。

ところが、妙なことにこの日に限って。
妻が素知らぬ顔で、目も合わそうといたしません。

丁欽は慌てて嘆願する。

「頼む。今度ほど難しい事件もまたとないのだ。お前なら難なく解き明かせるだろう。どうして、そう黙っている」

妻のなで肩をむんずと掴んで、丁欽は顔を覗き込んだ。

じっと見つめられて、妻は仕方なく、重い口を開きました。

「死骸の脳天をよく調べてご覧なさい。きっと、何かが出てくるはずです」

なるほど――ト、丁欽は膝をたたきまして。
さっそく手下たちに、死骸を検めさせる。

確かに傷一つない死骸ではございましたが。
誰も結い髪を解いてまで、検めてはおりません。




そうして、手下たちが見出したのは何かト申しますト。
細くも、固く長い、一本の釘でございました。
これが死骸の脳天から、まるで挿し込んだように埋まっていた。

これが本当の嚢中の錐。
――イヤ、脳天の釘でございます。

証拠を出されて、毒婦姦夫はあっさり白旗を揚げる。
この功を以て、丁欽夫妻はやんやと再び喝采を浴びる。

出し抜いてやった気分で胸を張る丁欽に。
天下の名按察使、姚忠粛がぽつりト言う。

「お前の妻は、人に嫁すのが二度目だと言っていたな」
「そうです。それがどうかしましたか」

丁欽は、憮然としたまま答えました。

「先夫の墓を検めてやるから、後で俺に感謝しろ」

狐につままれたように、丁欽は。
何のことやら、わけが分からず。
ただ、その墓暴きの終わるのを待っていた。

やがて、姚按察使の命を受けた同輩たちが。
丁欽の妻の先夫の遺骨を検めましたが。

そこで明らかになった事実とは。
一体、何だったかと申しますト――。

その者も同じく脳天から、釘を差し込まれていたのでございました。

「なんのことはない。己が考えついたことのあるやり方だ。だから、言い当てられたまでのことだ」

姚に諭されて、初めて丁欽は。
妻が先夫殺しの罪人たることを知りました。

己が犯したのと同じ罪を、妻がわざわざ暴露したその訳は。
謎を解き明かすという虚栄心を、抑えきれなかったからではなかったか。

姚忠粛と丁欽は、そう語り合ったと申します。

まさに嚢中の錐のごとく、才気と罪とが自然と発露したという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(陶宗儀著、元末ノ雑記集「南村輟耕録」巻四『勘釘』ヨリ)

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