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歌い骸骨

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こんな話がございます。

奥州は遠野郷のある村に。
七兵衛と十兵衛ト申す二人の若者がおりまして。
三年を期日と定めて、江戸へ稼ぎに出かけました。

七兵衛は道楽者の怠け者でございますが。
十兵衛は真面目一徹の働き者でございます。

村にいるときも、七兵衛は遊んでばかりで働こうとしない。
一方の十兵衛は、病気がちの老母を一人で養っておりましたので。
朝から晩まで働き詰めの日々を送っておりました。
それでも弱音ひとつ吐こうとしない。

何もかもが正反対の二人でございます。
また、特段仲が良かったわけでもない。

では、どうしてこんな不釣り合いな二人の者が。
一緒に旅に出ることになったかト申しますト。
ひとえに七兵衛の悪巧みからで。

ある夕暮れ時。
七兵衛は、働き疲れて家路に就く十兵衛に。
不意に近づいてきて、声を掛けた。
実は昼間からずっと待ち伏せていた。

「おお、十兵衛。精が出るな」
「おや、七兵衛か」
「毎日、おっ母のために働き詰めで、さぞ大変だろう」
「いや、これくらいなんてことはない」
「しかし、真面目なのは良いが、おっ母のためと言う割には、ちと効率が良くないな」

七兵衛は敢えて突き放すように、十兵衛に言う。

「どういうことだ」
「なに、お前ほどの熱意と才覚があれば、同じ時間でもっとたくさん金を稼ぐことができるだろうにという話だ」

十兵衛にとって、金をたくさん稼ぐ方法ト申しますト。
たくさん働く以外には知りませんでしたから。
自分の体がひとつしかない上は。
もうこれ以上、稼ぐことはできまいと思っておりましたが。

七兵衛は、江戸へ行けば同じ時間で今の三倍の金を稼げるト。
自分がつてを通じて手引をしてやるからト。
言葉巧みに十兵衛の決意を引き出しまして。

自分の弟分に、母の面倒を三年間、見させる約束をして。
十兵衛を江戸へと連れて行きました。

江戸へ着くと七兵衛は、知り合いの小間物屋に十兵衛を紹介する。
十兵衛は引き渡されるまま、その者から商いを学びまして。
やがて、櫛笄などを風呂敷に包んで売り歩くようになる。
コツコツと働き、地道に金を貯めていきました。

確かに国にいたときよりも、一日の稼ぎはずっと多い。
ところが、妙なことになかなか金が貯まりません。

それもそのはず、七兵衛が時々やって来ては、金を無心していきます。
ひとの働いた金で遊びに繰り出すという、悪い輩があったもので。

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それでも、十兵衛は同郷のよしみということもあり。
また、国にいるときよりは確かに儲かっておりますので。
もうすぐ、母親に楽をさせることができそうだト。
三年の月日を真面目に働き続けておりましたが。

江戸へ来て丸三年が過ぎようというある日の昼下がり。
吾妻橋を渡っていた十兵衛の後ろから。
七兵衛が慌てた様子で駆けてくる。

「おい、十兵衛。大変だ。おっ母さんが」

七兵衛は危篤の知らせを聞いて、真っ青になり。
ああ、やっぱり自分がそばに居てやるべきだったト。
悔みはしましたが、今さらどうしようもない。

ともかくも急いで国に帰ろうト。
荷物をまとめて、七兵衛とともに江戸を発つ。

泊まりを重ねて、二人は白河神社へやってくる。
かつて白河の関があったとされる古跡でございます。

ところが時は黄昏どき。
人っ子一人通りません。
鬱蒼と茂った暗い森に。
寂しい風がひゅーっと吹く。

歩き疲れた十兵衛と七兵衛は。
参道入口の鳥居の下に腰を下ろし。
しばし休んでおりましたが。

「十兵衛。お前、三年間でずいぶん貯めたろう」
「いや、思ったほどではないが、それでも国にいるときよりはだいぶ稼いだ」
「そうか。そいつは良かった」

ト言うか言わぬかのうちに、七兵衛は。
懐から道中差をサッと抜き。
十兵衛めがけて斬りつけた。

「やッ。なにをする――」

おっ母さんが危篤とは真っ赤な嘘。
実は、七兵衛は掛け取りに追われておりまして。
借金を江戸に放り出したまま。
十兵衛を連れて逃げてきたのでございました。

「悪く思うなよ。国を出たときから、こうなる運命にあったのだ」

七兵衛は十兵衛の懐から大金の入った巾着を抜き取りますト。
亡骸を藪の中に蹴込んで隠し、暗い森をひとり駆け去っていきました。

――チョット、一息つきまして。

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