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黄金餅(こがねもち)

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どこまでお話しましたか。
そうそう、吝い屋の願人坊主西念が、溜め込んだ金を餅に詰めて飲み込んでしまうところまでで――。

金兵衛は落ち着いた様子で大家の家を訪ねていきまして。
西念が餅を喉につまらせて死んだと知らせました。

「弱ったな。あんな身元の知れない者に死なれちゃ。何かと面倒だ」

ト、大家は己の身の上をまず案じている。

「そのことなんですがな、大家さん」
「どうした」
「実は私は西念さんに頼まれていることがありまして」
「ほう、なんだい」
「何分、身寄りのない身ですから、弔いなど死後の一切は金兵衛さんにお願いします、と。ホトケからこう託されたんで」
「そうかい。それは奇特なことだ」
「それから、ホトケの遺言で火葬にして欲しいと言いますんで」
「そいつはありがたい。それじゃあ、手配の方はもう調ってるのかい」
「手配と言うほどのものじゃございませんが、本人もあの通り貧乏でございますから。まあ、菜漬けの樽にでも入れて、菩提寺まで担いでやるくらいのことはしてやろうと思います」

それから夜になり、長屋の者たちも一人、二人と悔やみに来る。
弔いの施主を金兵衛が引き受けると言うので、みな感心しております。

「よし、それじゃあ俺も手伝おう」

ト、五、六人の住人が、金兵衛を先頭にいたしまして。
西念の菩提寺まで、代わる代わる桶ならぬ樽を担いでいった。

読経に焼香と、質素な貧乏弔いを済ませますト。
金兵衛はそそくさと立ち上がりまして。

「ああ、みんなご苦労だった。焼き場へは俺が担いでいくから、もう帰ってくれていい」
「しかし、一人で樽を担いでいくのは大変だろう」
「ナニ、中身が軽いから、なんてこたあない。できるだけ出費を抑えないといけないから」

ト、強情を張って長屋の連中を追い返した。

それから金兵衛は菜漬けの樽を背中に背負って。
焼き場へ一人で運んでいく。

「お頼み申します」
「ああ、木蓮寺からかい。鑑札は持ってきたか」
「へえ。ここにあります」

ト、寺から渡された札を焼き場の坊主に手渡しますト。

「並焼きでお願いしたいんですがな。負かりませんかな」
「焼き場に来て値切る人がありますか」
「いえ、ナニ。きちんと焼かなくても結構なんで」
「焼くからにはしっかり焼きますよ」
「頭と足は黒焼きでも結構ですから、腹のあたりは生焼けで願いたい」
「そんな焼き方ができますか」

それでは明朝――ト、金兵衛は一旦家へ戻りましたが。
西念の腹の焼け具合が、気になって気になって眠れない。
夜も明け切らぬうちに、もう焼き場へ戻って来た。

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「焼けましたかな」
「ああ、値切った人ですな。ずいぶん早く来たもんだ。おーい、隠亡。見ておやんなさい」

それから、隠亡――焼き場の人足ですナ――に案内されまして。
金兵衛が西念の骨を拾いに向かう。

「それでは、この箸で拾いなさい」
「わかってるよ。勝手にやるから、こっちを見るんじゃねえ」
「私が見ていないと、どれが歯でどれが骨かも分かるまい」
「いいんだよ。骨を拾いに来たんじゃねえんだ。こっちを見るなってんだよ。言うこと聞かねえと張っ倒すぞ。いいか、俺が拾っている間、こっちに近寄るんじゃねえぞ」

ト、隠亡相手に凄みまして。
渡された木と竹の箸で灰の中を掻き回しておりますト。
やがて、焼け残った西念の腹が見えてくる。

喜び勇んで、箸で肉を突っつきまして。
生焼けの腹を大きく左右に裂きますと。
中から煤けた餅の塊が出てきました。

固くなったあんころ餅を突き割るト。
中からきれいな山吹色の古金の粒が七粒、八粒――。

金兵衛は次から次へと焼き餅を突き割りまして。
古金をすっかり取り出しますト。
サッと懐にしまい込み。
隠亡の隙を見て、その場から走って逃げ去った。

「お前さん、お骨を持って行きなさい」
「くれてやるから、好きに拾えッ」

煙立つ灰の中に、取り残されたお骨と生焼けの腹。

金兵衛はその金を持って、芝は金杉橋のたもとに出る。
当地へ餅屋を出したところ、これが大層繁盛いたしまして。
後に江戸名物として知られることになる、黄金餅のこれが由来であるという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(三遊亭圓朝作ノ落語「黄金餅」ヨリ)

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