美女狩り、妖怪斬り

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こんな話がございます。
清国の話でございます。

よく正義漢だとか熱血漢ナドと呼ばれる者がおりまして。
とかく世の中では、こうした者がもてはやされがちでございますが。

正義と独善は紙一重。
熱血と残虐もまた、表裏一体と申せます。

かつて平陽の県令を務めた者に。
朱鑠(しゅしゃく)ト申す壮漢がございましたが。

この者はとにかく、己の責務を全うすることに熱心で。
悪を憎み、善を尊ぶこと、ひとかたならず。
その正義が度を越すこともたびたびでございます。
罪人に対する責め苦は、苛烈を極めるものでございました。

悪人にはみずから拷問役を買って出まして。
わざわざ分厚い首枷や硬い棒を、特注したというくらい。

イヤ、嗜虐が正義の仮面を被っているのではないかという。

殊に女囚を責めることの無慈悲さは、筆舌に尽くし難く。
中でも妓女などはまるで、親の仇でもあるかのようになぶります。

「美をもって人を惑わす者には、醜を与えて抗してやればよい」

妓女が罪を犯して引っ立てられてまいりますト。
朱鑠は決まってそう言いまして。
美しい衣を剥ぎ取り、丸裸にいたします。

そうして、その柳のように細い躰に鞭を打ち。
白い肌を、赤い蚯蚓腫れで埋め尽くすのでございました。

中には自慢の長い黒髪を、坊主のように剃り落とされた女もあり。
甚だしきに至っては、小鼻を刃物でえぐられた女もある。

血まみれになった妓女を客の前に放り出しては、

「その無様な格好で、いくらでも客を取るが良い」

ト、吐き捨てる。

「美を見てなお揺るがず。俺のように鍛え抜かれた不動心でなければ、こうはいくまい」

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そう言って、胸を張るのが常でございました。

さて、この朱鑠にもやがて任期を終える日がやってまいりまして。
妻子や愛妾、下男下女を連れて、山東へ移ることになりました。

途中、荏平(じんへい)ト申す地を通りかかりまして。
この地の旅店で一行は宿をとることになりました。

ところが、この旅店でございますが。
ひとつ、気にかかることがございます。
それは何かト申しますト。
扉を幾重にも封印した部屋が、一隅にある。

「あれは何だ」

ト、朱が問いますト。

「妖怪が出るのでございます」

店の主人がおずおずと答えて言いました。

「もう何年も固く閉ざして、開けておりません」

それを聞いて、朱が敢えて声高らかに笑い飛ばした。

「ハッハッハ。なるほど。それでは、我々はあの部屋に泊まることとしよう」
「いや、しかし――」
「何を恐れることがあろう。怪物も、我が威名を聞かば恐れをなし、尻尾を巻いて逃げ去ろうぞ」

しかし、家族の者たちは怖がって従おうといたしません。
仕方がないので、妻子や妾らは別室に寝かせることにいたしまして。
朱だけが件の部屋に入っていきました。

右手には剣を握り、左手には燭台を掲げている。

そうして一人、妖鬼の現れるのを座して待っておりますト。
やがて時は三更(零時前後)に至りまして。
トントンと、扉を叩いて入ってくる者の気配。

――チョット、一息つきまして。

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