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夜ごと女の首が飛ぶ 飛頭蛮

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こんな話がございます。
唐土(もろこし)の話でございます。

秦のころ、南方蛮地に落頭民ト申す異族がおりまして。
なんと首から上がひゅるひゅるトよく飛んだト申します。
この者たちの祭というのがまた凄まじい。
互いに首の飛ばしあいっこをして、ケラケラ笑っていたという。

その一部が飛びすぎて、海を越え我が日の本まで飛び来たり。
ろくろっ首の先祖になったとかならなかったとか。
――あまり当てにはなりませんナ。

ともあれ、秦の滅亡後。
この者たちも永らく忘れ去られておりました。

それから時代は降りまして。
時は三国鼎立の世でございます。

呉に朱桓(しゅかん)ト申す猛将がございまして。
孫権の側近として重んじられておりましたが。
この者がある時、下女をひとり、屋敷に置きました。

この下女というのがすこぶる愛嬌のある女で。
朱桓が通りかかると、上目遣いにニコッと笑う。
かと言ってそれが媚を売る風でもありません。
まるで屈託のない、純真無垢な乙女でございます。

これには主の朱桓も参ってしまう。
相手が卑しい身分であることも忘れてしまい。
どうにかして、一晩を共に過ごしてみたいものだト。
昼間っから気もそぞろで落ち着かない。

ト、大抵こういう男好きのする女というものは。
同じ女からはあまり好まれないのが常でございます。
それが、主人の奥方となればなおのことでございましょう。
細君は色にこそ出さねど、心中穏やかではございません。

「あなた」

ある時、夫の朱桓を突然、背後から呼び止めた。
朱桓は不意を突かれて、肩をすくめる。

「ああ、驚いた」

ト青ざめて振り返ったのも無理はない。

今しもかの下女の愛らしい面立ちを。
思い浮かべていたところでございます。

「その様子ではあなたも――」

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棘のある物言いに、さしもの朱桓もギクリとする。

「あの女に心を奪われているのでございましょう」

思わず反論しようとするのを、奥方が図ったように制しまして。

「いいのです。私は何もむやみに嫉妬して言うのではありません。ただし、あなたも仮にも将軍と呼ばれる身であるのなら、それなりの分別をわきまえていなければなりません。いいですか――」

ト、母のように諭そうとしてまいりますので。
さすがに朱桓もムッとせずにはいられない。

「いいえ。あなたはご存じないのです」

奥方はそれでも一歩も退かず。
夫に物を言う余地すら与えません。

「いいですか。あれはただの女ではありません。眠ると首が飛ぶのです」

これには朱桓も意表を突かれた。

「言うに事欠いてなんとたわけたことを」
「いいえ。あなたはご存じない。あれは夜に眠ると、首ばかりがどこかへ飛んで行くのです。すやすやと寝息が立ち始めたかと思うと、首が体を離れて床を抜け出し、窓から飛び去っていくのです。耳を翼のように羽ばたかせて、遠い夜空へ消えていくと言うではありませんか」

呆れて言葉を失っているト。
追い打ちをかけるように奥方が。

「あれは落頭民の末裔なのですよ」

ト、言ってまなこをギロリと夫へ向ける。
ここまでは奥方のほうがよほど怪談らしゅうございます。

――チョット、一息つきまして。

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