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焼き場の妖異が我をたばかる

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どこまでお話しましたか。
そうそう、夜の焼き場へ化け物退治にやってきた市助の前に、坊主が鉦を鳴らしながら現れたところまでで――。

闇の中からぬっと姿を現したのは。
ただ坊主ひとりではございません。
陰気な鉦の音に先導されて。
村の衆が二十人ほど後についている。

みな一様にがっくりうなだれて。
トボトボとこちらへ向かってくる。
数人が大きな樽を天秤棒で担いでいる。

いや、それは樽ではない。
早桶、つまり棺桶で。
月明かりが村の衆の顔に影を落とす。
野辺送りに来たようでございます。

「弔いだ。しかし、こんな夜更けにいったい誰の――」

呟いた市助の額にさあっと汗が滲みました。

「まさか――」

棺桶を前後から取り囲んだ葬列が。
坊主の叩く鉦の音に先導されまして。
市助のいる赤松の巨木に向かって近づいてくる。

チーン、チン。
チン、チーン、チン。

やがて弔いの列は木の根元までやってきた。

「ここで焼こうと言うんじゃあるまいな」

村の男衆が棺を地面に下ろす。
ドスンと大きな音が響きます。
さしもの巨木も心なしか揺れたように感じられた。

市助は息を呑んで見守っている。

ト。

チーン、チン。
チン、チーン、チン。

案に反し、坊主の鉦の音に先導されまして。
村の衆はまるで肩の荷でも下りたかのように。
来た道をまたトボトボと帰っていきました。

チーン、チン。
チン、チーン、チン。

ふたたび夜気ト静寂トが。
禿げ野原に満ち満ちていく。

後に取り残されたのは。
木の上に腰掛けた市助ト。
木の下の早桶ただひとつ。

市助は目を凝らし、じっと棺を見詰めている。

するト。

メリメリッ。
メリメリッ。

メリッ、メリッ。

メリメリメリッ――。

大釘を打ち込まれた棺の蓋が。
乾いた音を野原に響かせて。
内から徐々に反り上がってきた。

カチカチと腰の鉈が震えている。
市助の顔が恐怖に歪む。

「この親不孝者めッ」




ついに打ち破って現れたのは。
蓬の白髪を振り乱し。
両の目尻を釣り上げた。
鬼のような形相の我が老母。

桶を踏み倒しながら外へ出てくるト。
脇目も振らず木の真下へ飛び込んできた。

「許さんッ、許さんッ――」

赤松の巨木のその幹に。
飛びついた白帷子ががっしとしがみつく。

樹の皮に生爪を食い込ませ。
まるで怨念に操られるようにして。
少しずつ木を登ってくるからたまりません。

「不孝者めッ、親不孝者めッ」

市助はより高い枝へ逃げようと。
慌てて身を起こしますが。
足がすくんでうまくいかない。
荒い息遣いがどんどん近づいてくる。

「助けてくれ。助けてくれ」

必死に逃げようとするその足を。
妖物の冷たい手がぐっと掴んだ。

「ヒィーーーーーッ」

悲鳴とともに市助が。
手にした鉈を振り返りざまに。
無我夢中で振り下ろす。

硬い刃が妖物の硬い脳天を叩き割った。

「ギャーーーーーッ」

悲鳴とともに妖物が。
後ろ向きに地上へ墜ちていく。

ドスンと大きな音が鳴り響く。

市助はしばらく息を弾ませて。
呆然と木の股に立ち尽くしておりましたが。
ようやく気分が落ち着きますト。
枝から枝へ伝って地面へ下りた。

そこに横たわっておりましたのは。
でっぷり肥えた大狢。
頭から血を流して死んでいる。

ついに化け物を退治たぞト。
意気揚々と家へ戻っていった。

「帰ったぞ」

木戸をガラリと開ける。

囲炉裏の向こうには慈助とお花。
こちらに背を向けてうなだれておりましたが。
その声に揃ってゆっくり振り返るト。
ふたりして怨むように兄を睨みつけました。

「この親不孝者――」
「どうして、に兄どんの言うことを聞かなかった――」

ふたりが見下ろしておりましたのは。
今しも息を引き取ったかか様の。
小さなむくろでございました。

猛者は確かにたばかられていたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(越州ノ民話ヨリ)

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