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猫と南瓜

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こんな話がございます。

あるところに夫婦がございました。
長年、子宝に恵まれず、寂しく思っておりますうちに。
女房もそれなりの年になり、もう諦めようということになりまして。
二人はあれこれ考えた末、何か動物を飼うことにいたしました。

ちょうどその折、畑に一匹の子猫が迷い込みました。
生まれたばかりらしく、目がまだ塞がっております。
ミャーミャーと乳を求めて鳴く声が不憫に思えまして。
夫婦は、この猫を我が子と思って育てることに決めました。

村は漁村から近い。
毎日漁師が魚と野菜を交換しにやってくる。
毎朝の食事は魚でございます。
猫を育てるにはもってこいの境涯で。

女房は自分の魚を毎日、半分ずつ分けてやる。
猫も喜んでそれを食べてどんどん大きくなる。
にゃーと鳴かれると可愛いですから、欲しがるものは何でもやる。
一年もした頃には、でっぷり太った大猫になった。

その年の秋の初めのこと。
村に六部が立ち寄りまして。
夫婦の家に一夜の宿を借りました。

六部トいうのは、御存知の通り、六十六部ト申す巡礼のことでございます。
諸国六十六ヶ所の観音霊場を巡りまして、書写した法華経を一部ずつ納めます。
六十六部の経を、厨子に入れて背負っているから、六十六部。
詰めて六部ト申します。

さて、この六部が猫を見るなり、妙なことを言い出しました。

「ご夫婦はこの猫をたいそうお可愛がりのように見受けられますが」
「ええ。子どもが出来ませんで、我が子と思って育てております」

猫を抱いていた亭主が、笑みを浮かべて答えますト。

「悪いことは言わない。今すぐ、追い出してしまいなさい」

ト、六部はにべもなくそう言ってのけた。

「急に何をおっしゃいます。そんなに猫がお嫌いですか」

茶を運んできた女房は、困惑気味に問い返しますが。

「いや、そうではござらぬ。あなたに死相が出ているから申し上げたまで」




ト、睨まれた女房はますます困惑してしまう。

半俗とは言え、聖(ひじり)の申すことでございます。
亭主は気になって、身を乗り出してくる。
猫は何も知らずに、気持ちよさそうに抱かれている。

「女房さえ死ねば、毎日魚をまる一匹食べられるのに――。この猫は今、そう考えておりますぞ」

夫婦は揃って、「ばかばかしい」と呆れましたが。
考えてみれば、六部が魚の件を知っているはずがない。
そう思い至るト、急に目の前の聖を見る目が変わりました。

「しかし、急にそんなことを言われても――」

亭主も弱り切って、猫をさすりながら、答えます。

「ともかくその手をお離しなさい」

六部の目があまりにも強く責めるような眼差しでしたので。
亭主は思わず、手を離し、のけぞった。
その拍子に、猫は亭主の元を離れて、のそのそと歩き出していく。
待っていたように、六部が立ち上がりますト、凄まじい表情で猫を追い立てた。

「あッ――」

ト、女房が思わず声を立てましたのは。
土間に降り立った六部が、錫杖を振り上げて、

「エイッ、エイッ」

ト、猫を叩きつけたからで。

猫はギャッと悲鳴を上げながら。
打たれた脚を引きずって、どこかへ逃げて行きました。

――チョット、一息つきまして。

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