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死骸に乗る男

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こんな話がございます。
平安の昔の話でございます。

ある男がございまして。
どんな事情があったかは知りませんが。
長年連れ添った妻を離縁しまして。
一人で家を出ていってしまいました。

妻はこれを心から怨む。
嘆き悲しんで日を送る。
そのうちに、ついに患いつきまして。
挙句に亡くなってしまいました。

その女には、親兄弟も親しい者もございませんでしたので。
弔いを出してくれる者もなければ、死を気にかけてくれる者さえない。
亡骸は、家の中に打ち捨てられたままトなっておりました。

ところが、怨念というものは恐ろしいものでございます。
女の亡骸からは、髪の毛が一向に抜け落ちません。
肉は腐り落ちても、骨はいつまでも整然ト繋がって崩れない。

その様子を、隣家の者が壁の穴から毎日覗き見ておりまして。
ただでさえ、死霊の怨念に恐れ慄いておりましたが。

女の死骸を、常に異様な光が包んでいる。
家鳴りも始終止むことがない。
ドドドドンと地震のように鳴動する。

その凄まじさに、その者もついに怯えて逃げだした。

この噂はやがて、夫の耳にも入りまして。
男は事の顛末を聞かされて、生きた心地もいたしません。

――俺を怨んで怨み死にしたからには、きっと祟り殺されるに違いない。

そう考えるト、恐ろしくて夜もろくろく眠られない。
男は心神が衰弱しきってしまいまして。
さる陰陽師のもとを訪ねて行きました。

陰陽師は、男からいきさつを一通り聞きますト。




「もはや逃れることは難しいでしょうな」

ト、あっさり突き放した。

男は命が惜しいですから、

「そこをなんとか――。このままでは、私は殺されてしまいます」

ト、すがりつく。

「そこまでおっしゃるなら、やってみないこともありませんが――。ただ、これだけの怨みです。祓うためには、それなりに恐ろしい目に遭うことを、覚悟されなければなりませんぞ」

陰陽師はそう告げますト。
その日の夕暮れ時に、男を連れて、かの死霊の家へ赴きました。

男は他所で噂を聞かされただけでも、命の縮む思いがしましたが。
その家にみずから訪れるというのが、まず恐ろしくてたまらない。

覚悟をしなければならないのは分かっている。
しかし、どうしても足がすくみます。

陰陽師の陰に隠れるようにして、おそるおそるやってまいりますト。
かつて暮らした家は、開け放たれた戸口から、強い西日が差し込んでいた。

――チョット、一息つきまして。

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