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画中の人

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どこまでお話しましたか。
そうそう、竹林の七賢人図を巡って郭萱と議論になった柳城が、画中に入って体と意とを変えてきてみせると言い出したところまでで――。

郭萱はしばらく呆気にとられておりましたが、やがて大笑いしますト、

「どうです。これが柳君お得意の詭弁術というやつです。画の中に入って手を加えてくるだなんて。では、さっそくこの場で披露してもらおうじゃありませんか。詭弁術ではなく、道術をですよ」

ト、郭萱は柳城を挑発する。

柳城はまるで意にも介さずに、

「ええ、やりましょうとも。ただし、そのように疑うのでしたら、もし成功した暁にはどうしてくれるつもりです」

ト、胸を張って問い返した。

「よろしい。五千の銭を賭けましょう。ただし、成功したらですがね」

冉従長も、これは半ば期待する気持ちで、五千の銭を賭けました。
食客たちも、柳城をしきりに囃し立てながら、行く末を見守っている。

柳城は顎鬚をさすりながら、壁に掛けられた一幅の画をじっと眺めております。

「どうしました。怖気づきましたか」

郭萱が後ろから勝ち誇ったように嘲ります。

ト――。

ぴょんト飛び上がったかと思うト、一瞬にして柳城の姿がその場から消えてしまった。

一座の者は、再び言葉を失いました。

「――柳君はどこです」

郭萱も流石に動揺を隠せません。

「やはり。道理で自身に溢れていると思った。彼は道士だったのではないのかな」

冉従長が深くうなづきながら言いました。

「そんな馬鹿な。彼が道士だなんて。せいぜい奇術師でしょう。どこかに隠れているのに違いない。探しましょう。本当にたちの悪い冗談だ」

郭萱はみずから進んで部屋のあちこちを探し始めた。
それを見て、食客たちも真相を知りたい思いで、家具や扉の裏などを探して回りました。

しかし、柳城はどこにも見当たりません。

「もしや、その掛け軸の裏に隠れているのではないのか」

冉従長がふと思いついたように言いました。




「そうだ。壁に穴でも掘ってあるに違いない」

郭萱が急いで駆け寄ると、他の者たちもついてきまして。
掛けてあった画を、一緒にくるくると巻き上げました。

ところが、そこに穴などない。
柳城も隠れてはおりません。

「一体、どういうことだ」

郭萱が弱り果てておりますト。

「おーい、郭君。ここだよ」

ト、どこからか籠もったような声がする。

一同はあたりを見回してみますが、どこにも柳城の姿はありません。

「ここだ、ここだ。君たちが巻いた掛け軸の中だ」

驚いて、再び掛け軸を開いて見てみますト。
竹林の七賢人に混じって、柳城が笑いながらこちらに手を振っている。

「全員を一度に変えると違いがわからないだろうと思って、とりあえずこれだけ変えておきました」

見るト、柳城の指先が指し示しているのは、阮籍の姿。

確かに、元の姿とは異なり、うそぶいたように顔を大きくそらしている様が、より阮籍らしさを表しています。
一同は、驚嘆の声を上げました。
ひとり、郭萱だけが、不服そうな顔をしております。

「君たち、無邪気に手など叩いて喜んでいるが、何とも思わないんですか。彼は文人でも画人でもなんでもない。妖術使いだということが、これではっきりしたじゃありませんか。私は恐ろしいことだと思いますがね。朝廷でも幻術妖術の類は世を乱すとして、厳しく取り締まっている。私はそんな手合いの仲間だとは思われたくありません」

そう言って、郭萱は掛け軸を奪い取るト、再びくるくると巻き始めました。
郭萱の言い分ももっともですので、誰も反論できません。

「どうする気だ」

見かねた冉従長が尋ねますト、郭萱は、

「決まってるじゃありませんか。描いた仲間には悪いが、こんなものはさっさと焼き払わなければなりません。こうして現に妖物に取り憑かれているんですから」

ト言って、土間へ行くと竈の火の中に掛け軸を投げ込んでしまった。
途端に、人を焼いたような匂いが家中に立ち込めました。

冉従長の家に集っていた食客たちは、その後自然に四散していきました。
恐ろしく思ったのか、後ろめたく思ったのかは知りません。

一方の郭萱は、体と意との妙を会得した者として、後に大いに賞賛されまして。
天下第一の画人としての名声を独り占めにしたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(唐代ノ伝奇小説「酉陽雑俎」続集巻一ヨリ)

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