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蒼き炎と眠る美童

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どこまでお話しましたか。
そうそう、土地の者たちから文を託された一休禅師が、もぬけの殻となった寺町で一人の稚児と出会うところまでで――。

稚児は、一休が僧だと気づくト、安心した様子で。

「旅の御坊におわしますか」

ト、小鳥の囀るような声で問いかけます。

「一晩の宿を借りたい」

一休は歩き疲れておりますので。
ぶしつけに用件だけを申しますが。

稚児は稚児で、慣れた様子でこう答える。

「お泊めしたいのはやまやまですが」
「うむ」
「この寺には夜ごと化け物が出ます」
「なんと」
「枕元に来たりては、人を取り殺しますので」

ト言って、気遣うように一休を見る。
おやめなさい、ト言わんばかりの面持ちで。

「いや。拙僧が案ずるのはそれではない」

一休は驚き呆れて、稚児を見た。

「その化け物というのが、そなたは恐ろしくはござらぬか」

稚児は一休をつぶらな瞳で見つめたまま。
しばらく黙って考えておりましたが。

「それほどまでにと仰るなら、今晩限りお泊め申しましょう」

ト、問いには答えず、禅師を奥へと案内した。

稚児は湯を沸かし、飯を炊き。
甲斐甲斐しく旅の禅師をもてなします。
他には誰も住んでいない様子でおりますが。
一休にはそれが不思議に思われてなりません。

やがて、ひんやりとした風とともに夜が来る。
笹がさらさら揺れている。

「どうぞ、ごゆっくりお休みくださいませ。わたくしは隣の部屋で寝ておりますので」

一休のために床を敷くと、稚児は部屋を出ていきました。

寂しい寺町の静かな寺の一室とて。
他にすることもございません。
行燈の火を消し、そそくさと床に入る。
ところが、なかなか寝付かれません。

何故、これだけの寺町が。
稚児のみ残し、もぬけの殻となったのか。
何故、この寺には住持もなく。
稚児が一人で住んでいるのか。

考えれば考えるほど。
奇妙奇怪でございます。

――それに、あの文。

この寺に入ってきた時。
稚児が身の後ろにサッと隠したのは。
とりもなおさず、血に染まった幾通もの文。

――何か、裏があるに違いない。

禅師は、懐にそっと手をやりまして。
敢えてまだ渡していなかった文を確かめる。

するト、四通あったその文が。




スルスルッ――。
スルスルッ――。
スルスルッ――。
スルスルッ――。

ト、ひとりでに懐を抜け出した。

「ムムッ」

一休は宙に漂いだした文を捕まえまして。
その行こうとするところへ、ついていきますト。
隣の部屋、稚児の寝ている間のふすまに突き当たる。
そっと開けてみて、禅師は驚いた。

手毬ほどの大きさの、仄かに青白く燃える火の玉が。
ふわふわと宙を舞いつつ、一休の文を招いている。
床の下からポツン、ポツンと次から次へ。
現れ出ては、寝床の稚児を取り巻きます。

そうとは知らず、件の稚児は。
すやすやト安らかに眠っている。

床板の隙間から滲み出るように、ポツン、ポツン。
縁の下から、青い炎が湧き出してくる。

やがて、それら火の玉のそれぞれが。
順々に寝ている稚児の懐へと飛び込みんだ。

瞬く間に、稚児を包み込み、また、稚児と混じり合い。
いつしか、一丈(3m)もの大きな鬼ト化していた。

「ボウズ ハ イズコ――。キノウ ノ ボウズ ハ――」

青い光に包まれた鬼は、己の部屋をさまよい歩く。
やがて隣に客殿があることに気づきますト。
ドスン、ドスンと、床を踏み破らんばかりの勢いで。
隣の部屋を探し始めはしましたが。

一休は稚児の寝間の片隅で。
ただ、取り澄ましておりました。
その心に迷いがないがゆえにか。
禅師の姿が鬼には全く見えないようでございます。

「イズクゾ、イズクゾ――」

鬼はそれから一晩中、二つの部屋を。
行ったり来たりしておりましたが。
やがて、東の空が白み始める。

諦めて稚児の床に入ったかと思うト。
青い炎も床下へと消えた。
鬼はいつしか稚児の姿に戻っておりました。

「化け物の正体がわかりましたぞ」

日も昇りきった頃。
目をこすりながら起きてきた稚児に。
一休は静かに声を掛ける。

「その床板を上げて、縁の下を見せてもらいましょう」

ハッとしつつも、かの美童は。
言われたとおり、床板を一枚上げますト。
そこに、男たちの血で綴られた艶書が山となって。
無造作に投げ捨てられておりました。

「どうせ、これもお読みにはなりますまいな」

そう言って、一休は託された文を。
懐から取り出し、稚児に見せる。

読まれずに捨てられた艶書の山を庭に運び出し。
焼き払い、経を読み、悪鬼をも払ってやりますト。
それ以降、この寺に鬼が出ることはなくなったト申します。

顧みられることのなかった恋情と。
打ち捨てられた赤い血が。
執心の炎となって、稚児に夜な夜な取り憑いたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(「諸国百物語」巻三の十九『艶書の執心、鬼と成りし事』ヨリ)

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