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妻の首をすげ替える

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どこまでお話しましたか。
そうそう、冥界の判官に臓物を取り替えてもらって以来、鈍かった朱小明の頭が突然冴え出すところまでで――。

ある晩の酒の席。
朱はいつにもまして、判官に酒を勧めます。

「先だっては臓物を入れ替えていただいたおかげで、私の頭脳も見違えるように明晰になりました。ところで一つ相談があるのですが」

上目遣いで判官を見る。

「遠慮はご無用。なんでもおっしゃってください」

さしもの判官もすでに酔いが回り始めている。

「実は私の妻のことでございまして」
「ほう、奥方が」
「なにぶん、うだつの上がらぬ時分に結婚しましたもので」
「ふむ」
「肉付きは申し分ないのですが、いかんせん顔のほうが」
「なるほど。承知いたしました」

それから数日後。
夜更けに門を叩く者がある。
慌てて床を抜け出て、招き入れますト。
判官が懐に何かを抱えて立っていた。

「お喜びくだされ。先程、ついにご所望の品を手に入れましたぞ」

見るト、その手に抱かれておりますのは。
ハッとするような美女の生首で。
まだ首の切り口から、鮮血がダラダラと垂れている。

「野犬に血の匂いを嗅ぎつけられると困ります。さあ、急ぎましょう」

判官に急かされまして、朱は妻の寝室へ案内する。
男二人が暗い廊下を、抜き足差し足忍び足。
そっと戸を開けて中に入っていきますト。
妻がだらしのない姿で眠っている。

判官は生首を朱に渡しますト。
沓に挿しこんであった小刀を抜き取りまして。
朱の妻の首にあてがいますト。
ぐっぐっぐっト両手で押し込んだ。

ザクッ、ザクッ、ザクッ――ゴロリ。

さあっと寝台に広がる鮮血の海。

判官は急いで美女の生首を受け取りますト。
これを妻の切り落とされた首の跡にはめ込みまして。
頭頂を押さえて、ぐいっトねじ込んだ。

「そちらの首は庭の片隅にでもお埋めなさい」
「に、庭に――」
「いかにも。もう要らないのではございませぬか」

呆気にとられて立ち尽くす朱を。
判官が手を引いて連れ出しまして。
いつものように酒を酌み交わしますト。
機嫌良さそうに帰っていきました。

朝。

妻はいつものように目を覚ます。
ト、何やら具合がいつもと違います。
何気なく顔を撫でてみるト、血がぬらり。
「ぎゃっ」トいう叫び声に下女が驚いて飛んでくる。

「お、奥様。そのお顔は――」

奥方の顔はすっかり血まみれで。
目鼻がどこにあるのかも分からぬくらい。
盥に水を汲んで運んできまして。
顔を洗うト、みるみる盥が真っ赤になる。

「あ、あなた。私――」




騒ぎを聞いて入ってきた朱に、妻が震える声で助けを求める。

「うむ。なるほど。すばらしい。――心配しなくてもいい」

朱は満足げに頷きますト。
持ってきた手鏡を妻に向けてみせる。

「あ、あなた。私は――、私は――」

柳のように細い眉。
紅差す頬に、小さなえくぼ。
絵に描いたような美女の顔が。
動揺した様子で問いかける。

「私はどこッ。私はどこッ」

妻の首には赤い筋。
上下で見事なまでに肌の色が異なります。

突然失われた我が顔と。
突然現れた他人の顔と。

朱の妻は大いに混乱しまして。
そのまま気が違ってしまいました。

するト、噂はたちまち千里を走りまして。
数日後、立派な身なりの者が朱の家を訪ねてくる。
これは呉御史ト申す土地の高官でございまして。
我が朝で申すなら、代官かそれ以上でございます。

「その方の妻は突然、別人のように顔が変わったそうであるな」

朱はこの高官の意図がよく飲み込めません。
何かを咎めているのは確かでございましょうが。
さて何を咎めているのかが分からない。

「実はその、かくかくしかじか、こういうわけで――」

判官を背負って帰ったことから。
首のすげ替えの件に至るまで。
朱は妻を御史に引き合わせて。
何から何まで白状いたしましたが。

「よし。この男を連れて行け」

あっさりと捕縛され、連れ去られてしまいました。

実は、判官が首をすげ替えたあの晩。
呉御史の十八になる美しい娘のその寝室に。
何者かが押し入ったのだト申します。

悲鳴に家の者たちが駆けつけてみますト。
首のない娘の無残な死骸が。
寝台に横たわっていたのだト。

妖術をもって衆人を惑わした罪により。
朱はあっけなく刑場の露と消えましたが。
狂乱した妻は、娘の身代わりとして。
呉御史の家に迎えられ、何不自由なく暮らしました。

一方、十王殿の東廊からは、判官像が跡形もなく消えていたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(清代ノ志怪小説「聊斎志異」巻二ノ五『陸判』ヨリ)

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