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子殺し幻術

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こんな話がございます。
唐の国の話でございます。

唐の咸通年間のこと。
トある城下の、トある巷間に。
幻術使いが一人現れまして。
童子一人の手を引いておりましたが。

どうして、これが幻術使いと知れたかト申しますト。

「さあ、お立ち会い、お立ち会い。これから世にも不思議な幻術をお目にかけましょう。寄ってらっしゃい、見てらっしゃい――」

ト、みずから吹聴して歩いておりますから。
ナルホド、こいつは幻術使いだなト。
巷の人々にも知れたので。

まるで西域人みたような。
栗色の巻き毛に獣皮の帽子。
見るからに胡乱な男でございます。
ただし漢語は何故だか流暢で。

子どもたちは、二人の後をはしゃいでついていく。
大人たちも冷やかしに、後を追っていきますト。

トある広場に差し掛かるや、幻術使いは立ち止まった。
手を引かれてきた童子もまた、立ち止まる。

年の頃なら十歳ばかり。
まだあどけない童子でございます。
これもやはり西域人らしい。
栗色の巻き毛に蒼い瞳で。

そんな二人をたちまち取り囲む。
漢人ばかりの人だかり。

親父が背中をソロリと撫でますト。
倅は操り人形よろしく、ペコリとお辞儀をいたします。

が――。

ナント、非道の親父がスラリと抜いたは斬馬刀。
沈みかけた夕日を受けて、鋭い刃先がキラリと光った。

瞬く間の出来事とて、人々が呆気にとられておりますト。

「エイッ」

ト、一声。

幻術使いは倅の首を斬り落としてしまった。

見物たちは目を見開いて立ち尽くすのみ。

無残に白目を剥いた童子の首。
鮮血が溢れてたちまち池となった。




「お、お前。一体、何をしている」

ようやく一人が、絞り出すようになじりましたが。
幻術使いの方はまるで動じもいたしませんで。

「さあ、お立ち会い。お立ち会い」

ト、声を強めて言いました。
落ち窪んだまなこに、グッと力が籠もっている。

「さあ、今からこの子を生き返らせて見せましょう。ただし、お代を頂きますぞ」

人々はようやく、ナルホドと合点いたしまして。
先を争うように投げ銭をくれてやりますト。

「一、二、三――。起来ッ」

父が気合を掛けて叫ぶや否や。
倅はムクッと起き上がり。
血に濡れた己が首を元へ嵌め。
スタスタ軽やかに駆け出した。

血溜まりは砂漠にこぼれた水のごとく。
いつしか乾いて消えている。

途端にドッと沸き起こったのは。
割れんばかりの歓声で。

翌日も同じ父子二人が。
同じ城下の巷間に現れる。
評判を聞きつけ、駆けつけた見物は昨日の倍。

同じようにお辞儀をし。
同じように首を斬り落とす。
同じように気合を掛け。
見物は同じように起き上がるのを見守った。

ところが――。

童子はいつまで経っても起き上がらない。

見物は固唾を呑んで見守るばかり。

白く剥いた童子の目。
赤い血が生き物のように広がっていく。

見るト、父親は額に汗を滲ませて。
青ざめた顔で見物たちを見回していた。

――チョット、一息つきまして。

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