どこまでお話しましたか。
そうそう、継母にいじめられたお雪が、苺摘みに雪野原へ追い出されるところまでで――。
「これこれ。どうした。風邪をひくぞい」
それからどれほどの時が経ったのやら。
気がついて頭をもたげて見てみますト。
背後から老人がひとりこちらを覗き込んでいる。
身の丈はやっと四尺八寸(144cm)ほど。
髪も髭も白くて長い、奇妙な老人でございます。
「手も足も霜に焼けて真っ赤じゃぞ。なにか訳があるのじゃろう」
思わず情にほだされまして。
実はかくかくしかじか――ト。
すがる気持ちでこれまでのあらましを訴えた。
「なんじゃ、そんなことか。それなら、わしに着いてきなさい」
老人は訳もなさそうにそう言いますト。
答えも待たずにスタスタと雪道を歩いていきました。
お雪は来し方を振り返る。
どうせこのまま帰るわけにはいきません。
ままよ、ト立ち上がり、老人の後をついていった。
老人はお雪を振り返りもしない。
まるで通い慣れた道かの如く。
未踏の雪原を横切っていく。
白い空には何やら怪しげな黒い鳥が。
二人の跡を追うように飛んでいる。
お雪は心細くなりまして。
何度、帰ろうと思ったことか知れません。
それでも、今さら帰る道も分かりませんので。
仕方なく後をついていきますト。
やがて目の前に現れましたのは。
見たこともない大きなお堂のような建物で。
「ここはどこです」
不安になって尋ねますト。
「わしの家じゃ。入りなさい」
ト、老人は答えて中へ入った。
「おおい、帰ったぞい」
呼びかける老人のその声に。
「おお」
ト、響いた勇ましい声にお雪は驚いた。
見るト、お堂の高い天井の梁という梁に。
ズラリと並んだ若衆たちの姿がある。
その数、ざっと十余人。
ある者は腰を掛け、ある者は立ち上がり。
また、ある者は器用に梁の上を歩き回っている。
「一郎」
「おお」
ト、勢いよく手を挙げましたのは。
凛々しいひとりの若者で。
「二郎」
「おお」
すっくト立ち上がりましたのは。
やや柔和な顔つきの若者で。
それから、三郎、四郎、五郎、六郎――ト。
一人ひとり呼ばれるたびに返事をする。
穏やかな顔、笑みに満ちた顔、晴れやかな顔、爽やかな顔――。
実に様々な顔が揃っている。
合わせて十二人の若い男が、老人の呼びかけに答えましたが。
これがみな全て、老人の息子なのだト申します。
最後の幾人かは実に険しい表情を浮かべておりまして。
殊に十二郎の凶悪な目つきに、お雪は思わず肩をすくめました。
――チョット、一息つきまして。