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怪談牡丹燈籠

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どこまでお話しましたか。
そうそう、浪人萩原新三郎が愛しいお露と夢の中で契りを交わすところまでで――。

その後も新三郎はお露のことばかり思い詰めて日を暮らしておりましたが。
時は流れて、六月も末に近くなった頃。
かの幇間、山本志丈が実に五ヶ月ぶりに姿を現しました。

「いやあ、だいぶご無沙汰いたしまして。あれから何やかやと忙しく、どうも時間が取れませんでな」
「私も飯島様のお宅に菓子折りの一つでも持って、先日のお礼に伺おうと思っていましたが、一人で出向くわけにもいきませんで」

ト、新三郎はさり気なく、お露の話題に触れてみましたが。

「さあ、今日伺ったのはそのことですがな。あなた、驚いちゃいけませんよ。あのお宅の嬢様は亡くなりました」
「エッ」

ト言ったきり、新三郎はあまりのことに言葉を失ってしまう。

「あなた、これは私が悪いんじゃない。恋の病で死んでしまうなどとは、私だって聞いたことがない。ところが、どうもあなたのために、嬢様は亡くなったそうですぞ。あなたに恋焦がれるあまり、あれから床に伏すようになったようで。会えずにいるうちにどんどんやつれて、そのまま息を引き取ったとか。それから女中のお米さんも、間もなく亡くなったそうでがす」

伝えるべきことを伝えてしまうト、志丈は逃げるようにして去っていった。

取り残された新三郎は、ますます鬱々と自室に籠るようになりまして。
せめてもの供養にト、毎日念仏三昧の日々を送ります。

時しも盆の十三日。
精霊棚の支度を終え、浴衣姿の新三郎は縁側で団扇を使いながら。
生け垣の向こうには、白く冴え渡る十三夜の月。
ト――。

――カラン、コロン。
――カラン、コロン。

生け垣の外。
誰かが駒下駄を鳴らしながら歩いていく音がする。
その音がいやに甲高く響きます。
新三郎はふと気になって生け垣に歩み寄る。

外を覗き見ますト、三十過ぎの丸髷の年増。
手に提げているのは、その頃流行りの牡丹の飾りがついた燈籠で。
ほのかな燈火に導かれ、後から下駄の音がついてくる。
十六、七の娘のようでございます。

「おや――」

よく見るト、それは紛うことなきお米とお露。
二人の方でも新三郎に気が付きまして。

「まあ、萩原様」

呆然と口を開けたまま、お米が非常に驚いています。

「あなたはお亡くなりになったと聞いておりましたが」
「何をおっしゃいます。あなた方こそ、亡くなったと聞きましたが」

双方、狐につままれたような面持ちになりまして。
ともかくも、座敷に上がり話を聞いてみますト。
お米の方でも、志丈がやってきて新三郎が焦がれ死にをしたト聞いたという。

「嬢様は、あなたのことが忘れられず、お父様からの縁談もすべて断りましてねえ。それ以来、谷中の三崎村に引き越しまして、念仏三昧の日々を暮らしているのでございますよ」

お米の言葉に、新三郎も嬉しいやら驚くやらで。
お露はお米の後ろに隠れて、始終もじもじとしております。

その晩は二人とも新三郎の家に泊まりまして。
それから毎晩、牡丹燈籠のほのかな明かりを頼りに通ってくる。




――カラン、コロン。
――カラン、コロン。

今度ばかりは夢でなく、新三郎とお露は契りを交わしました。
それからは漆のごとく膠のごとく、ぴたりと寄り添って離れない。

ところが、これを伴蔵が偶然覗き見て、驚いた。
同じ長屋に住む白翁堂勇斎と申す人相見のもとへ駆け込みますト。

「先生、先生。萩原様が大変です」

翌朝、白翁堂は伴蔵を伴い、杖をついて新三郎の家を訪ねます。

「萩原氏(うじ)、萩原氏」
「おはようございます。どうかしましたか」
「今日はあなたの人相を見て進ぜましょう」
「人相――。朝っぱらから人相でございますか」

新三郎は困惑しながらも、白翁堂は亡き父の朋友ですから、頭が上がらない。

「萩原氏。あなた、このままでは二十日のうちに命を落としますぞ」

これには新三郎も驚きまして、

「突然、何をおっしゃいます」
「突然も何もない。毎晩通ってくる女があるでしょう。あれをお遠ざけなさい」
「ああ、あの女のことなら問題はございません。素性の知れた旗本の娘でございますから」
「そうではない。あの女はこの世の者ではないのです」
「何ということを」

新三郎はついカッとなる。
そこへ、伴蔵がおそるおそる割って入ります。

「萩原様。あっしは本当にこの目で見たんで。骨と皮ばかりの幽霊が、萩原様の首にしがみついておりました」
「貴様は何を言いやがる。家主の家を勝手に覗き見するとは何事だ」

可愛いお露にケチを付けられて、新三郎は怒り心頭でございます。

「萩原氏。嘘だと思うなら、その谷中の三崎村の家というのを訪ねてご覧なさい。本当にそこに女が二人住んでいるなら、私も黙っておりましょう」

そう言われますト、新三郎にも不審に思う点はございます。
二人に腹を立てながらも、谷中の三崎村を訪ねて行きましたが。

どこで訊いても、女二人が近くに住んでいるという答えは聞けません。
谷中は寺町ですから、あちこち訊いて回るうちに、ある寺の墓地を通りかかった。

ト、見慣れた牡丹の燈籠が、墓石の前に雨ざらしになっている。

新三郎は驚きまして、寺の住職に尋ねますト。

「ああ、あれは飯島平左衛門というお旗本の娘御の墓でございます。先ごろ亡くなられまして、こちらに葬られたのでございますよ。燈籠でございますか。あれは看病疲れで間もなく亡くなった女中がおりましてな。一緒に葬った際に、遺品にあったものでございます。引き取り手もないので、ああして飾ってあるのです」

――チョット、一息つきまして。

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