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冥土への抜け穴

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こんな話がございます。

ある家中に、大川判右衛門ト申す武士がございました。
槍持乗馬を引き連れて――ト伝わりますから。
まず中の上といったところでございましょう。
家中ではかなり信頼を置かれていたようでございます。

ある日、この判右衛門に宛てて、豊後の国元から書状が届きました。
女手で書かれてあるのを、やや不安に思いながら開封してみますト。
兄嫁が書いて寄越したものでございました。

「去る十七日の夜、我が夫、判兵衛が、妙福寺における棋会において、些細な諍いから寺田弥平次に斬られました。夫は死に、仇はすでに当地から逃げ去っております。私どもには子がなく、また私は女の身でございます。仇討ちをお頼みできるのは、貴方様より他にございません」

悲痛な叫びが綴られている。
書状を一読するト、判右衛門はすぐに立ち上がりました。
主君に暇を申し出まして、一子、判八を連れ、江戸を出立する。

ト申しましても、仇はすでに国を去っているとのことですので。
むやみに諸国を行脚しても埒が明きません。

「寺田の家でも、弥平次を厳重に匿っていることだろう。聞いた話では、但馬の国に百姓をしている親類がいるとのことだ。まずはそこへ行って、様子を探ってみることにしよう」

ト、当てずっぽうよりはましですから。
倅の判八を連れて、但馬国に下っていった。

素性を隠し、密かに探っておりますト。
百姓家の門構えに反して、近頃、塀を二重に巡らした家があるトいう。

父子はそれを聞いてただちに向かう。
確かに浪人を大勢雇い、番犬まで何匹もうろつかせている。
夜は油断なく、拍子木を打って回っている。
何か事があれば、すぐさま大勢で出てきそうな態勢でございます。

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これぞまさしく、弥平次の匿われている家に違いない。
ただし、これでは、うかつに踏み込むこともできません。

父子はそれから数日に渡って、様子をうかがっておりましたが。
しばらくして、ついに好機が訪れました。

その日は夜になって風雨が激しくなりまして。
しかも月のない真の闇でございます。

判右衛門と判八は、焼き飯をこしらえる。
鍋や釜を手にするト、嵐の中を出ていった。

これらを何に使うのかと申しますト。
鍋釜は、いざという時に盗人が入ったものト思わせるため。
焼き飯は番犬どもに食わせて、警戒を解くためでございます。

こうして犬どもを手なづけておきまして。
その隙に、二重になっている塀の外側からまず穴を開けた。
外側の塀に穴をくり抜くト、続いて内側の塀にも同様に抜け穴を作る。
夜陰と風雨に乗じて、父子は仇のいる家へ、忍びこむことに成功した。

ところが、敵もさるもので。
これを見越して、一層警戒を強めていたものと見えまして。
父子が広庭を横切っていきますと。
目ざとくそれに気づいて、声を上げた。

「何者だッ」

それはまさに、兄の仇、伯父の仇。
寺田弥平次の声に相違ない。

――チョット、一息つきまして。

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