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強欲の指切り

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こんな話がございます。

昔、紀州のある村に、強欲者の夫婦がございました。

よく、己の損得勘定にばかりうるさい者を指しまして。
「あの人は強欲だ」ナドと申しますが。
この夫婦は少し、たちが違う。

そもそも勘定ナドというものがございません。
とにかく、手に入ると分かったものがございますト。
たとえ損が目に見えていても手に入れないと気が済まない。

以前、肥溜めに誤って煙管を落とした旅人がございまして。
本人はとうに諦め、捨ておいて去ろうといたしましたが。
それを知った夫婦は、半日かけて肥だらけになりながら。
それをようやく掬い上げて、持ち帰ったことがあるという。

ところが、考えてみるト、亭主も女房も煙草を喫みません。
誰かに売ろうにも、糞まみれの煙管を買おう者などどこにもいない。
今では、二歳になる子どものおもちゃになっているト申しますが。

こうなるト、もはや心の病でございましょうナ。
もっとも、人間の欲というものは、多かれ少なかれ。
皆、病と言えるのかもしれません。

ある時、村の地侍が数人寄り集まりまして。
村はずれの神社の前を流れる川に、死人がよく流れ着くトいう話が出た。

「どうだ、一つ肝試しでもしないか」

ト、今も昔も男が寄り集まるト、こういう話になるのは変わりがない。

「夜に一人で川に行って、死人の指を切って持ち帰った奴に、ここにいる全員の刀をやるというのはどうだ」

さすがに条件が突飛に過ぎましたからか。
誰も手を上げる者がおりません。

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地侍とはいえ侍には違いありませんので。
腰のものを取られるわけにはいきません。
かと言ってやはり、闇の中で誰とも知らぬ死人の指を切るのは勇気がいる。

ところが、手を上げた者が一人おりまして。
それが例の強欲者でございます。

「行こう、行こう。俺が行く。こんなにうまい話はまたとない」

ト、後先をまるで考えていない。

「それでは行って来い」トいうことになり。
一旦、家に帰りましたが。
その帰路で早くも、怖気づいてしまいました。

家に帰るト、女房がこの話を聞きまして。

「なんだい、情けない。どうせ死んでるんじゃないか。使いもしない指と交換で、刀が四本も手に入るなら、こんなうまい話はないよ」

ト、欲の国から欲を広めに来たようなことを言う。

「あんたは家で留守番をしていなよ。私が行って切り落としてくるから」

子どもを背負ってたすき掛けにいたしますト。
喜び勇んで夜道を駆け出していきました。

――チョット、一息つきまして。

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