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呪い人形 針千本

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どこまでお話しましたか。
そうそう、ある武家の奥方の病の床から、骨の節々に針を突き刺された絵人形が見つかったところまでで――。

奥方の急逝から七日が経ちまして。
いよいよ殿様を交えての詮議が始まります。

「まず、御寝所に詰めている者でなければ、枕の裏にさようなものを置けぬはず」
「いかにも」
「さりとて、これは禿(かぶろ。幼い腰元見習い)の所業とも思えませぬ」
「すると、腰元のおゑんか、お髪揚げのおもん、この両人のうちの一人に違いない」
「なるほど。それも道理」

ト、実にあっさりと特定されまして。
二人が奥の一間に呼び出されます。

「かようなことは、外から侵入した者の仕業とも思われぬ。そなたらいずれかの所業に相違いない。速やかに仔細を白状しなければ、どのような責め苦を与えられぬとも限らぬぞ。有り体に申せ」

ところが、もとよりこの二人は全く身に覚えがございません。
ふたりとも、顔面を蒼白にいたしまして。
口を揃えて申し上げますことには。

「あまりと言えばあまりのお言葉にございます。もとより身に覚えのないこと、いかなる責め苦を受けましょうとも、申し上げる仔細などございませぬ。常々、奥様の優しいお心遣いを受けてきましたわたくしどもに、どうしてそのような恐ろしいことができましょう」

二人は突然の宣告に、涙を流して無実を訴えますが。
沖之進は、可愛い新妻を失ったばかりですので、こちらも正気ではいられない。

「話さぬか。話さぬと申すのだな。それでは目に物を見せてやるより他にない。やれッ」

その一声で、二人は屋敷裏の椋の木に連れて行かれます。
寒風の中、腰巻き一枚で大木に括りつけられ、三日間飲まず食わずの責め苦を受ける。

「思い知るが良いッ」

ト、内股から順に針をぶすりッ、ぶすりッ――。
気を失わんばかりに、二人は悲鳴を上げる。

「生きたまま地獄の剣山を転がされるよりは、いっそ消え入ったほうがましではないか」

心のなかではそう思いますが、もはや言葉も出せません。

それを見て、沖之進はますます逆上いたしまして。

「ふてぶてしい女(あま)めらがッ」

ト、今度は二人の足に石を括りつけまして。
ドボンと堀の中に放り込んだ。
首から上だけがかろうじて水面に出ております。

時は十二月の二十二日。
雪こそ降らねど、あまりの寒さに竹の割れる音が、昼夜やまずに聞こえてくる。
山陰の滝が凍りつき、水音が絶えてしまうほどの寒天でございます。

水漬けにされた女二人は、息の続く限り念仏を唱えておりましたが。
ついに五日目の夕暮れに、両人声を上げまして。

「罪(とが)なきことに一命をとる。主とはいえどもこの非道、決して許すまい。無念や、悔しや。この一念、きっと晴らしてみせようぞ」

ト、奥歯をギリギリ噛み締めながら、堀の水の泡と消えていった。

こうして、始末が済みますト。
もはや、奥方付きの下女たちはお役御免でございますから。
一人ひとり呼びだされて、暇を言い渡されることとなりましたが。
その中に、物縫い役のおゆたという女がございました。




このおゆたと申す下女は、奥様と時を同じくして自身も患いつきまして。
暇を言い渡されると知り、荷物を取りに里から戻ってきたばかりでございます。

ところが、その荷を確かめてみて、どうも腑に落ちないことがある。

「私が長年大事にしてきた針が見当たりません。どうか探して下さいませ」

ト、奥方の乳母に申し上げる。

「この慌ただしい時に、たかが針のために動けるか」

ト、乳母は一蹴いたしましたが。

「たかが針ではございません」

おゆたも負けじと言い返します。

「あれは、ここから百五十里も離れた京の御簾屋で仕立ててもらった上物です。殿方ならば、さしずめ刀や脇差しに値するもの。私の命でございます」

そう詰め寄られますト、無碍に追い払うわけにも参りません。

「なるほど。もっともの言い分じゃ。して、その針はどこにあった」
「奥方様から頂いた、衣装絵の雛形に刺しておきました」

その言葉に、乳母はさあっと血の気が引く思いがいたしまして。
震える手で、懐から例の呪い人形を取り出しますト。

「そうです、それでございます」

ト、おゆたは明るい声を張り上げて、奪うように取り返す。
もはや他に用はございませんので、軽い足取りで里へ帰って行きました。

残された乳母は、その場に崩れ落ちたまま、立ち上がる気力もすでになく。
幾日も経たぬうちに、消え入るような頓死を遂げました。
主君、沖之進もまた、年の明けた頃に、

「痛いッ、痛いッ――。氷の剣が――。予をさいなむぞ――」

ト、わけの分からぬことを口走りながら、死んでいった。

その後は皆々散り散りとなって、家は潰れまして。
栄華を誇った屋敷跡も、草の原と化したト申します。

浅はかな憤怒と知恵とが、まさに針小棒大の業を生んだという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(井原西鶴「懐硯」巻三の五『誰かは住し荒屋敷―姿絵針さしとなること―』ヨリ)

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