::お知らせ::  [ 画師略伝 ] 「月岡芳年 ―血みどろ絵師は「生」を見つめた―」を追加しました

踊る猫

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こんな話がございます。

ある山奥に、貧相な荒れ寺がございました。
住職は腰の曲がったヨボヨボの爺さんで。
もうこの年では気力も体力もございませんので。
昼夜なくうとうとトばかりしております。

これではあまりに頼りがないト。
檀家にも一軒二軒と逃げられまして。
檀家がなければ、寺は食えません。
明日の身も知れぬ貧乏寺と成り果てておりました。

ここに、この山寺から唯一逃げ出さなかったものがございまして。
名をトラと申す、これまた年老いた猫が一匹、住み着いておりましたが。
やはり気力や体力の衰えからでございましょうか。
和尚同様、日がな一日、居眠りばかりして暮らしておりました。

和尚にとっても、長年の相棒でございますが。
近頃、悩みができましたのは。

寺が食えなければ、和尚も食えぬ。
和尚が食えなければ、猫を食わせることもできません。
かと言って、そこらに捨てるわけにもいかない。

和尚は悩みに悩んだ末に。
猫に永の暇を言い渡すことに致しました。

――しかし、どうやって伝えたものか。
突然、出て行けと言うのも忍びない――。

そんなことをつらつらと考えていた、ある秋の夜。
今宵は中秋の名月でございます。

貧乏寺の良い所ト申しますト。
こんなときに、邪魔な来客が一切ないことで。

和尚は月でも眺めて、それから考えようト。
縁側に続く障子の方に目をやりますト――。

白い月光を浴びて、鮮やかに浮かび上がる、怪しい影。




和尚は腰をぬかさんばかりに驚きまして。
霞みがちなまなこを、じっと凝らして見つめますト。
小さな影が、両手を頭の左右に掲げ、尾を振りながら踊っている。

――ト、トラのやつめ、ついに化けおったか。

長年、慣れ親しんだ相棒のトラが、取り憑かれたように踊っている。
ほとんど寝たきりで、居眠りばかりしていた老猫が――。

和尚は和尚で、あまりのことに少なからず動揺をいたしまして。
がらりト後ろから障子を開けますト。
猫は、瞬間、憑き物でも落ちたように、ピタッと踊りをやめまして。
人間で申すところの青ざめた顔をして、和尚をハッと振り返った。

「ト、トラや――。お前――」

いかにも気まずそうな表情で、トラが浮かれた両手を下ろします。

「猫は老いると化けるという。化け猫は月を見て踊り出すという。お前に限ってそんなことはないと信じていたが、やはり畜生は畜生よのう。今宵を限りとして、これからは別々に暮らそうじゃないか。なあ、トラよ――」

和尚が寂しそうに語りかけますト。
トラもまた、覚悟を決めた様子でございます。
がっくりと肩を落としながら、すすき野原へ消えました。

その力ない後ろ姿に、和尚は来し方幾十年を思い起こしまして。
密かに涙を流しはいたしましたが。

心の何処かに、「ちょうどいい口実になった」トの考えが。
まったく無かったわけではございません。

――チョット、一息つきまして。

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コメント

  1. レビュアン より:

    失礼しますレビュアンと申します。いつも楽しませていただいておりますm(__)m現代語訳の文章もいかにも古風を残し、素晴らしいと感嘆しております・・・一時期江戸期の、黄表紙本を読んだりしていたことがありましたが・・・・・挫折しました(^^;)今後も楽しみにしておりますm(__)m

    • onboumaru より:

      コメントありがとうございます。
      なかなかこういうジャンルは興味を持ってもらえないのでは、
      と思いつつ始めたブログですので、お褒めいただいて本当に嬉しいです。
      励みにして頑張ります。
      黄表紙を読まれていたとのこと、すごいですね。
      私は活字になったものしか読めません…。
      今後もご愛顧のほどよろしくお願いいたします。