河童駒引 五郎兵衛と河童徳利

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こんな話がございます。

相州のとある川の畔に、五郎兵衛ト申す馬方が住んでおりました。

五郎兵衛は真面目で几帳面な男でございまして。
馬もその気質をよく知ってか、聞き分け良く働きます。

五郎兵衛は馬を非常に大事にする。
馬も五郎兵衛に心から懐いている。

この馬は、人間なら十六の娘といったところの牝馬で。
名前は赤(あか)ト申します。
五郎兵衛と赤は、まるで夫婦のように。
互いに息の合った、良い相棒でございました。

ある日のこと。
五郎兵衛は川の浅瀬で、赤を洗ってやっておりました。

「今日は天気も良かったし、おまえもよく働いたから、汗びっしょりになってしまったなあ」

ナドと言いながら。

自分も汗びっしょりになって、馬を磨いております。
赤も気持ちよさそうに、五郎兵衛に身を委ねている。

ト――。

淵の水の中をスーッ、スーッと。
何者かが行ったり来たりするのが見えました。

背丈からするト、人間のようではございますが。
その滑らかな泳ぎぶりは、まるで魚かあめんぼのよう。

五郎兵衛は、「何だろう」とは思いましたが。
深くは気にせず、また馬をざぶざぶ洗い始める。

ト――。

スーッ、スーッ。
スーッ、スーッ。

徐々にこちらの浅瀬に近づいてくる。

五郎兵衛は奇妙に思って、顔を水面に近づけてみるト。

ザブンッ――。

ト、突然、水面に顔を出しましたのは。
青ざめた体に、緑色の苔がびっしり生えた、気味の悪い妖物で。

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「か、河童だッ」

五郎兵衛は、驚きのあまりに足を滑らせ、大しぶきを上げる。
入れ替わりに河童が、水の中から飛び上がってくる。

「あッ」

ト、五郎兵衛が腰を抜かしたまま、声を上げた時には。
河童は牝馬の尻に食らいついていた。

赤は思わず、後ろ足を蹴り上げ、悲鳴を上げる。
それでも河童は尻に食らいついたまま、離れません。
尻の穴に口を当て、頬を凹ませて、何かを吸い出そうとしております。
牝馬は身をよじらせながら、かつて上げたこともないような声を上げる。

相棒の危機を目の当たりにして、五郎兵衛は慌てて起き上がりますト。
後ろから河童の首根っこを、両の拳を固めて殴りつける。
怯んだところを、羽交い締めにして、馬から引き離しますト。
河童も必死で、水の中へ逃げ込もうトいたします。

その騒ぎを、たまたま通りかかった仲間の甚五郎が見かけまして。
五郎兵衛に加勢して、二人で河童を捕まえる。
二人で押さえつけたまま、縄で河童を縛り上げまして。
川岸に生えている木に、ぐるぐるト固く巻きつけました。

「太え野郎だ。俺の大事な馬コに」

五郎兵衛は、湧き上がる怒りをどうにも抑えることができません。
拳に怒りを込めて、河童の頭の皿を殴りつけてやった。

「ざまあみろ。てめえみたいなやつは、ここで干上がって死んじまえばいい」

普段は穏やかな五郎兵衛が、捨て台詞を吐いて荒々しく去っていく。
仲間の甚五郎もこれには少しく意外に思いました。

一方の河童は、置き去りにされて、涙を頬に垂らしている。
立ち去り際に振り返った五郎兵衛にも、その悲しげな表情が目に入った。

家の馬小屋に帰って、一息つくト。
五郎兵衛も少しは気が落ち着きまして。
河童の涙が頭をよぎるようになる。

「河童と言えども、名誉っちゅうもんがあろう。皿を割られて、縛り付けられたまま死ぬのでは、仲間から面汚しと罵られるかも知れねえ」

そう考えるト、河童が急に哀れになりまして。
赤にも一声掛けた上で、川岸へ戻っていきました。

河童は生きているのか、死んでいるのか。
青い血の滲んだ皿に夕陽を受けて。
縛られたまま、がっくりトうなだれている。

五郎兵衛が縛めを解いてやりますト。
力なく見上げた後、黙って川へ戻っていきました。

――チョット、一息つきまして。

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