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白い乳房に憑いたもの

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こんな話がございます。

大和国のトある商家に。
尼僧がひとり立ち寄りまして。
一夜の宿を求めました。

そればかりなら何の事はない。
誰も妙には思いますまいが。
この尼がただならぬト申しますのは。
あまりに若く美しかったからで。

白い頭巾から覗くその美貌。
年の頃なら十八、九。
餅のような頬にうっすらト紅が差し。
墨衣に包まれた姿態も妙にしなやかで。

「それはもちろん構いませんがな」

ト、主人が舐めるようにその容姿を見下ろす脇から。

「お前様のような別嬪がどうして尼に」

ト、お内儀(かみ)が割って入りました。

「それでは、お話いたしましょうから、家の方々を集めてくださいませ」

尼僧がこう申し出ましたので。
家内は無論、隣近所からも人が詰めかける。
にわかに法話の席が設けられました――。

尼は俗名をお雪ト申します。
まだあどけない童女であった時に。
二親に立て続けに死なれまして。
幼いながら天涯孤独となってしまった。

それを見かねたのが郷内の分限者、つまり金持ちで。
お雪を引き取り、養い育てておりました。
これこそ男の甲斐性でしょうナ。

やがて年十五、六にもなりますト。
その美しさが日に日に隠しようもなく顕れる。
まるで夜陰に薫る梅の香のようで。
お内儀も思わず見とれるほどでございましたが。

主人も男でございます。
家内にこれほど美しい娘がおりながら。
心穏やかに保てようはずがございません。
いつしかお雪に懸想するようになった。

お内儀に目をかけられていた手前。
お雪は大いに困惑いたしましたが。
かと申せ、主人に見放されますト。
たちまち生きるすべを失ってしまいます。

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金と権勢に押し切られまして。
お雪はほかにいたし方もなく。
心の咎めを奥歯で噛み締めつつ。
ついに主人と通じました。

じっと閉じたその瞼に。
幾つも浮かんでは消えていく。
お内儀の顔、顔、顔――。

そうして幾夜も過ぎました。

するト、時を同じくして。
お内儀がふと患いつきまして。
病態は日増しに重くなる。
床に伏せる日々が続きました。

お雪はただでさえ気が咎める上に。
幼い頃から親代わりに育ててくれたお内儀が。
毎日、床でうなされておりますので。
真心込めて看病いたしましたが。

お内儀はついに明日をも知れぬ有様トなる。

「お雪や。旦那様を呼んでいらっしゃい」
「はい――」

お雪に呼ばれて夫が枕辺へやってまいりますト。

「あなた」
「どうした」

主人は気まずい顔でそう答える。

「私はもう死にます」
「そんな弱音を吐くものではない」
「私が死にましたら、あなた――」
「何だい」
「どうか、お雪を後妻に迎えてやってくださいませ」

意外な一言に主人は驚いた。

「あの子の心根の正しさは私がよく知っています。あの子をおいてあなたの妻が務まる者はございません。どうか、お雪を後添えに」

主人は白々しくも拒んだ末に、ようやく妻の願いに頷きました。

――チョット、一息つきまして。

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