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金弥と銀弥

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こんな話がございます。

さる国の城の奥御殿に。
侍女が二人おりまして。
名を金弥(きんや)に銀弥(ぎんや)ト申しましたが。

容姿は世にも愛らしく。
仲はト言えば睦まじく。
起き伏し常にともにあり。
いずれ菖蒲(あやめ)か杜若(かきつばた)で。

「銀弥さん」
「はい、金弥さん」

ふっくらト白いもち肌に。
緑の髪を肩まで下げ。
紅い唇をすぼませながら。

「お花が咲いておりますねえ」
「本当。きれいに咲いておりますねえ」

ナドト微笑み合う様は。
まるでメジロの姉妹のようで。

十六の娘盛りではございますが。
あどけなさはほんの童女のよう。
二人の零れんばかりの愛嬌に。
主君も深く慈しんでおりましたが。

ある時のことでございます。

金弥がふとした風邪心地から。
ひどく患いつきまして。
遠く離れた父母の家に。
しばし里帰りトなりました。

ところが、それから待てど暮らせど。
一向に金弥の消息がございません。
まるで片割れを失ったあわびのように。
銀弥は寂しく日々を暮らしている。

「金弥さん――」

ひとり夜の庭に出て。
雲間の月を見上げます。
花冷えの夜気に当たった頬に。
ツーっと流れる熱い涙。

するト、それから幾日か過ぎた頃。
金弥が知らせもないまま戻ってきた。
銀弥は躍り上がって大喜びする。

「我ら二人は一心同体。親は違えど姉妹の如きもの。ずっとそばに居りましょうね」

ト、ふたり手を取り頷き合いました。

それからは片時も離れることなく。
寝間ではひとつの衾に臥し。
金弥が右に寝返れば、銀弥も後を追い。
厠まで連れ立っていく始末でございます。

かくして半年が過ぎた秋の末。

いつものように御前を辞し。
ひとつ衾に滑り込み。
肩寄せあって、物語ナドしつつ。
いつしか寝入っておりましたが。




秋の夜長も更けた時分――。

金弥が床を出ましたので。
銀弥も気づいてついていく。
燈火を灯して暗い廊下を。
二人連れ立って歩いていった。

やがて突き当たるいつもの厠。

例によって金弥が先に入る。
が、いつまで経っても出てまいりません。

寝ぼけ眼で待つうちに。
秋風が徐々に銀弥の眠りを覚ました。

――どうしたのかしら。

銀弥はふと気になりまして。
戸の隙間から中を覗いたその刹那。

「あッ――」

ト、ひと声漏らして、息を呑んだ。

――き、金弥さん。

それは金弥であって金弥でない。
面(おもて)は金弥の貌(かお)ながら。

色は鬼の如く朱に染まり。
まなこをギッと見張りつつ。
歯をギリギリ噛み合わせ。

両の手に火の玉を二つ弄んでいる。

銀弥はあまりのことに身じろぎも出来ず。
わなわなと震えて立ち尽くす。
夜風に震えるのではございません。

木戸の隙間のその向こう。
丸い二つの火のかたまりを。
ポンポンと手玉の如く弾ませている。

赤い光が厠に満ちる。
青い夜空に銀の月。

――チョット、一息つきまして。

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