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群れなす呪い人形

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どこまでお話しましたか。
そうそう、死んだ下女の呪いの人形が、未亡人の前に夜ごと現れるところまでで――。

知らせを聞いて駆けつけた父の蘇丕は、さっそく道士を呼び寄せます。

「何か妖鬼のたぐいに取り憑かれているのに違いない」

ト、何度も屋敷の不浄を払わせましたが、全く効き目がございません。
夜になると、人形の群れが父の前にも平気で現れて歩きまわる。
これには蘇丕も肝を冷やした。

と言って、そこで引き下がらないのが、さすがは県令で。
父は土地の者に命じて、数十人の人間に屋敷のそこかしこを守らせました。
それからは夜ごと、人と妖鬼の追いかけっこが繰り広げられましたが。
何日目かの晩に、ようやく一体だけ捕まえることが出来ました。

ト、その呪いの人形を捕まえてみて、驚いた。

背丈は人の膝丈ほどですが、顔や体つきはまるで本物の人間のよう。
着物を脱がせようとすると、まるで屈辱を受けたかのように、キッとこちらを睨みつける。
強いてそれを脱がせますと、雪のように白い肌に柔らかい乳まである。
腕や首元には青い血の管が走っており、ぴくぴくと脈を打っている。

「刀を持って来い」

ト、蘇丕は従者に命じました。
人形は観念したように、静かに目を閉じる。

エイッと腹に刀を突き刺した途端、ドクドクドクと血が流れ出しました。
切り裂いてみると、しっかり臓腑が収められている。
何一つ人間と変わるところがございません。

人形は血まみれになって息絶えましたが、その最後の表情がいかにも無念そうでしたので。
蘇丕はこれを人間らしく弔ってやることにした。
庭に薪を積み上げて火を着けますと、燃え盛る炎の中に、かの人形の死骸を投げ込みました。

飛んで火に入る夏の虫とは申しますが。
そこへ集まってきたのは、かの人形の仲間たちで。




さすがに飛び込みはいたしませんが。
仲間の荼毘に付される様に感応したものかどうか。
炎に駆け寄ったり、周りを飛び回ったりして悼んでおります。
みな一様に泣き叫んでいる。

人形を焼いてしまうと、残ったのは嫌な匂いで。
まるで人間の死骸を焼いたような匂いが、屋敷中に立ち込めました。

翌日、人々がもっと驚きましたことには。
かの仲間の人形たちが、喪服を着て現れては、全員で慟哭いたします。
それが七日七晩続きました。

それから半年の月日を掛けまして、ようやく五体の人形を一体ずつ捕らえました。
捕らえては焼き、捕らえては焼く。
そのたびに人形たちが仲間の死を悼み、喪服を着て弔意を表します。

ついに残りが一体とはなりましたが。
この一体がなかなか捕まらない。
数十人の男たちが、毎晩追い掛け回しておりますト。
ある時、塵捨場の塵の中に、潜るようにして逃げ込んでしまった。

そこで、今度は百人余りの人間を集めまして。
一斉に土を掘り返させてみましたところ。
人の背丈よりも深い地中から、桃の木で作った呪符が出てまいりました。

「李家の婢(しもべ)、蘇家より来たりし嫁を呪わんがため、人形七体を作りて東の土塀中の龕(むろ)に置けり。九年後に効力あるべし」

そこで土塀を取り毀してみると、空洞の中から、最後に逃げた一体が現れた。
これも焼き払ってしまうと、ようやく娘は本復し、以後、障りはなかったと申します。

呪いのために生み出された人形ではございますが。
これは造物主に取り残された後も、死ぬまで本分を全うせんとしたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(唐代ノ伝奇小説「広異記」中ノ一遍『蘇丕女』ヨリ)

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コメント

  1. 深川八幡太郎 より:

    非常に煙に巻かれるような結末でまさに不思議な話の骨頂。
    ただ九年後の呪いの意味がどうにも腑に落ちませんな。当時の彼の地では九年で夫婦関係は一つの区切りを迎えるのでしょうか?
    野暮は承知でその辺の種明かしなどがあればうれしい限りです。

    • onboumaru より:

      原文は「其後九年当成(その後九年にしてまさになるべし)」で、「九年後に必ずや呪いをなすだろう」というような意味でございます。
      これは呪いの成就に相当な時間がかかる代わりに、それ相応の効力を保証している文言と思われます。
      相応の効力――たとえ呪い主がすでにこの世にいなくとも、一度掛けられた呪いは必ず完遂するという、人形の機械的な意志でございましょうナ。

      • 深川八幡太郎 より:

        なるほどなるほど。
        その想いの深さやら重さやら暗さやらを「九年」で表したというわけですな。
        まさに傀儡の気味の悪さを思い知りました。ありがとうございます。