::お知らせ:: 最新怪異譚 焼き場の妖異が我をたばかる を追加しました

 

猫と南瓜

この怪異譚をみんなに紹介する

どこまでお話しましたか。
そうそう、夫婦が泊めてやった巡礼者が、我が子同然の猫を打ち据えて追い払ってしまったところまでで――。

夫婦は六部をとんだ乱暴者だト思いましたが。
相手は背中に尊いお経を背負う身です。
文句はあるが言うに言えず、ただただ猫との別れを悲しみました。

それから秋が過ぎ、冬が来て、その年も暮れになる。
夫婦はその間、寂しく日々を暮らしておりました。

女房は町へ出て新年を迎える支度をする。
ト、そこでこんな噂を耳にした。

「犬と違って猫というのは薄情なやつですな」
「まったく、そうですな」
「何しろ、飼い主の赤ん坊の首に、食いついたって言うンですからな」
「でっぷりと太った猫だそうじゃないですか」
「ええ。あんまり太りすぎたからか、脚を引きずりながら逃げたということです」

女房は不意に、秋に来た六部のことを思い出しまして。
夫に知らせようと、慌てて家に帰りますト。
まだ亭主は帰っていない。
代わりにいたのは件の猫。

囲炉裏に火も焚いていない薄暗がりで。
二つの目が妖しく光っている。
もっとも、どんな猫でも目は光りますが。

鋭い牙をむいて、こちらを見据えている様を見るト。
やはり、あの噂に上がっていたのは、この子ではないかと思えてくる。

猫は女房に愛想を振りまきもせず。
黙ってはしごを登り、天井裏に消えていった。
やはり脚を引きずっています。

天井裏に猫が一匹。
見下ろされる場所に女房が一人。

女房は亭主の帰りが待ちきれない。
震える手で消し炭を手に取りますト。
床に何かを書きつけまして。
長櫃の蓋を開けて、自身がすっぽりと中に収まった。

バタンと蓋が閉まる。
天井裏で猫がにゃーと鳴きました。

やがて亭主が帰ってくる。
凍える手を揉みながら上がってくるト。
床に何か書きつけてある。

「死相出タハ我
猫ヲ退治セヨ
天井裏ニアリ」

ふと、振り返って見上げるト――。
猫がムササビのように四肢を広げて飛び降りてくる。

亭主は思わず、手で猫を払いましたが。
猫は亭主には目もくれません。
一目散に長櫃に駆け寄りまして。
ガリガリと噛んだり、蓋を押し上げようとしたりする。

なるほど、あの六部の言うことは本当だったのだト。
この時に至り、亭主もようやく思い知らされまして。
慌てて土間に駆け下り、包丁を手にしますト。
無心になって長櫃を開けようとしている猫の背後に詰め寄った。

長櫃の蓋がぱっと開く。
ぎゃあっと女房が悲鳴を上げる。
猫が飛び込もうとしたその瞬間――。
亭主が猫の首根っこに勢い良く斬りつけた。

殺気に満ちた首が宙を飛んでいき。
壁にぶつかってドスンと床に落ちました。

それからまた春が来て、夏が過ぎ。
秋になるト、例の六部が宿を借りにまた訪れた。




「あの猫はどうなりました」

夫婦は感謝の言葉を述べ、その後のいきさつを語りました。

「今晩はご馳走をいたしますので、是非ごゆっくりおくつろぎください」

そう言って、女房は昼のうちに用意しておいた材料を使って料理を作る。
亭主は酒を振る舞って、六部を丁重にもてなします。

やがて料理が次々に運ばれてくる。
海の幸有り、山の幸有り。
夫婦には精一杯のご馳走でございましたが。

箸をつけようとして、六部が不意に女房を睨んだ。

「この南瓜(かぼちゃ)、どこで採りました」
「う、裏の野原に勝手に生っていたものですが」

女房はまた何か不都合があったのかト、気が気でない。

「ご亭主。して、その猫の首はどうなされましたかな」

亭主は六部の言わんとすることを察して、がたがたト震えながら。

「う、裏の野原に埋めました」

そこで六部は提灯を提げ、夫婦に裏の野原へ案内させる。
南瓜の生っていたところに、まだ茎が残っている。
六部に言われて亭主が掘り起こします。

そこに猫の首が埋まっておりました。

末期の殺気を湛えたまま。
目をカッと見開いておりますが。

何より夫婦がゾッとしたことには。
南瓜の茎は、その両の目から生えていた。

退治された化け猫が、死してなお害をなさんとしたという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(沖永良部島及ビ遠州磐田ノ民話ヨリ。全国ニ類話多数有リ)

この怪異譚をみんなに紹介する

新着怪異譚のお知らせを受け取る