廃寺の五妖怪

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こんな話がございます。

昔、智行兼備の僧がおりまして。
諸国をさすらっておりましたが。
ある国にやってまいりますト。
妙な噂が耳に入った。

かつては荘厳だった名のある寺が。
今では住持の僧が住み着かなくなってしまい。
庭には草がぼうぼう生い茂り。
床には蜘蛛が這い回っているという。

仏道者として、これは聞き捨てならじト。
土地の在家を訪れまして。
詳しく様子を尋ねてみますト。

「そのことでございます」

ト、檀家が僧の方へ身を乗り出す。

「これまでに御坊様が何人かおいでにはなりました。いずれの方も初めこそ、案ずることはない、任せられよ、と頼もしいことをおっしゃるのです。ところが――」

そこでひとつ言葉を呑んだ。

「ところが――」
「はい。ところが、夜になっていざ寺に入られますと、明くる朝にはきっと姿を消しているのでございます」
「ほう」

ト、僧も頷いた。

「我々といたしましても、悲しいやら申し訳ないやらで、今では住職を求めもいたしません。定めし化け物でも出るのだろうと、檀家連中でももっぱらの噂でございまして」

僧はじっと耳を傾けておりましたが。
あごを二、三度さすりますト。

「それでは、拙僧がその寺を所望いたそう」

ト、申し出る。

「差し支えなければ、拙僧がお預かり申す。他の方々へも何卒ご通達願いたい」

家の主人は呆れた様子で、

「それは構いませんがな。ただ、今も申しました通り、何が起きるか分からぬ寺でございます。悪いことは言わない。おやめなされ。まあ、私一人で断るわけにもゆきませんから、一応話はしてみますが」

そう言って、檀家連中を集めて評議をいたしましたが。
みな一様に「無駄じゃ」と申し出をはねつける。

「なるほど、皆様方のおっしゃることももっともではござる。さりとて拙僧も不惜身命、不求名利の身にござる。命を捨てるのは元より惜しくはない。ただ、法灯の途絶えんとするを、黙って見過ごし難きのみでござる」

僧もよっぽど頑固と見えまして。
誰が何と言おうと聞きません。
檀家たちもついに根負けいたしまして。

「そこまで言うならお止めはいたしません。ただ今日こうして何かのご縁により相まみえたものを、明日には早、露となりゆく御身と思うと悲しいのです」

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一同、大いにその身を案じつつ。
寺を僧に預けることにした。

夕暮れ。

僧は油と灯心、それに抹香を用意いたしまして。
仏前を形ばかりに調え、経を読み耽る。
知らぬ間に時は過ぎて、夜も四更(午前三時頃)になんなんとする。

煩悩の霧が立ち込めては晴れ、晴れてはまた立ち込める。
やがて姿を現す真円の月のまばゆい光。
ようやく心が澄みわたった、ちょうどその時でございました。

その大きさはゆうに一丈(約3m)あまり。
光り輝く大きな何かが。
庫裏(居室)の方にぴかっと見えた。

ト、その光に向かって呼びかける声。

「チンボク殿はおられるか」
「誰だ」
「トウヤのヤカンにござる」

そう答えるや否や、壁の破れ目からこちらへ入ってくるものがある。

身の丈は五尺(150cm)ばかりにして。
目は日月のように輝いている。
手には松明を掲げている。

「おおい、俺だ」

ト、また呼ぶ声。

「誰だ」
「ナンチのリギョだ」

入ってきたのは、これまた異形の者。
丈は七、八尺(210cm~240cm)。
まなこは黄金色、身は白金の鎧にできている。

続いて、

「サイチクリンのイッソクのケイ」

ト、名乗る者あり。
これは朱色の兜、紫の鎧を身にまとい。
左右には翼、身の丈は六尺(180cm)。

最後に、

「ホクザンのコリ」

ト名乗ったのは。
色見分け難くして、丈は四尺(120cm)ばかり。

いずれもみな妖かし、怪奇の者たちばかりでございます。

――チョット、一息つきまして。

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