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土偶の博徒

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どこまでお話しましたか。
そうそう、城中の夜回りの番卒が、闘蟋の博奕をしていた一団の中で、ひとりの男の首がもげるのを目にするところまでで――。

番卒は何だか、見てはいけないものを見てしまった気持ちになりまして。
びくびくとこちらを見上げる老若の男たちを睨みつけますト。

「博奕は天下のご法度だ。お前たちもよく知っておろう。それをなんだ。事もあろうに城中で」

ト、あくまで博奕の非を責めて言う。

するト、男たちもにわかにホッとしたような表情になり。

「これは大変お見苦しいところをお見せいたしました。このことはどうぞ、ご内聞に」

ト、言って番卒の前に差し出しましたのは。
盆に載せた山のような銅銭でございます。

「ムッ。大きに儲けておるな」
「今後も融通していただけましたら、この程度の額は毎晩――」

ナドと寺銭を差し出す旨を申し出る。

番卒は、鷹揚に銭を収めてその場を後にする。
夜明けを待って確かめてみますト、その額三千銭。
これがみな本物の銅銭でございます。

突然手に入った大金に、番卒はすっかり舞い上がる。
かの首のもげた男のことは、進んで忘れることにいたしまして。
翌晩も亭に赴くト、やはり男たちは闘蟋に熱中している。

首のもげた男は、もはやその輪の中におりません。

「旦那さま。これは本日の寸志にございます」

盆の上に山のような銅銭がズズッ――。

番卒が銭を受け取る。
男たちは再び熱狂の渦へ。
リリリリリ――ト、コオロギの鬨の声。

明くる晩も、また明くる晩も、そのまた明くる晩も――。

番卒はやがて上官に虚偽を申し出まして。
夜回りをひとりで行わせてもらえるよう。
首尾よく命令を取り付けた。

今ではすっかり博徒の元締めでございます。
懐も肥え、左うちわの暮らしを送るようになる。

ところが、悪銭身に付かずトハよく言ったもので。

そのうちに城中でひとつの事件が出来いたしましたが。
なんと、軍資庫から銭数千と銀数百が盗まれたト申します。




「近頃、やけに羽振りの良いやつがいるじゃないか」
「そうだ。きっとあいつがやったに違いない」

人徳はこういうときに物を言ったり言わなかったりする。

たちまち番卒への疑念の声が、四方八方から噴出します。
番卒は捕縛され、吟味の矢面に立たされた。

「かくなる上は、何もかも申し上げます。実はかくかくしかじか――」

番卒は命惜しさに、これまでの経緯をすっかり白状する。
肇慶太守の鄭安恭が、この話を聞きまして。

「面白い。わしも行って、その博徒とやらを見てみよう」

そこで番卒を連れて、かの亭へ向かったかと思えば、それが違う。

太守は何か思うところがあったものか。
番卒を連れて、あちこちの廟を順に訪ね回る。
最後に城隍廟へ向かいました。
これは、土地の守護神を祀る廟でございます。

番卒は中へ入ってアッと驚いた。

廟の中、漢風の城隍神を取り囲むように。
立ち並んでいる蛮俗の者たちに見覚えがある。

他でもございません。
かの亭で毎晩、闘蟋に明け暮れていた。
老若の博徒どもでございます。

イヤ、正しく言えばそうではない。
かの博徒たちと顔貌が寸分違わぬ。
土人形がそこに群居していたのでございます。

「その土くれどもの腹を割ってみよ」

太守の命を受けて、下役が一体の腹を割る。
ト、中からザクザクと銀貨が雪崩をなしてこぼれてきた。

さらに捜索するト、土中からは大量の銭が現れる。
それらをかき集めて数を数え、番卒の着服分と合わせますト。
見事に、軍資庫から失われた金額ト合致いたしましたので。
ようやく事件はこれら土人形の仕業と知れました。

無論、人形はその場で片っ端から破壊されましたが。
その中には、紅顔の少年像が一体ト。
首のもげた人形が一体混じっていた。

土地の旧霊が新参者に一矢を報いるという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(宋代ノ志怪小説「夷堅志」乙巻之十二第四『肇慶土偶』ヨリ)

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