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苺の六郎、雪の十二郎

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どこまでお話しましたか。
そうそう、吹雪の中で行き倒れたお雪が、見知らぬ老人の家で十二人の息子たちに出会うところまでで――。

「でも、どうして――」

お雪はひとつ気になって尋ねました。

「どうして、こんな名前をつけたんです」

お雪が不思議に思うのも無理はない。
十二人の息子の名が、みな一郎やら十二郎やら。
これでは、あまりに芸がございません。

「一郎は一月、二郎は二月、三郎は三月――。みんな、その月の申し子じゃからの」

涼しい顔で老人がそう答えるのを聞きまして。
道理で、トお雪は妙に合点がいった。

確かに一郎は正月らしい凛々しさで。
四郎には花開く季節の陽気さがあり。
初夏の六郎は快活ながらも爽やかで。
厳冬の十二郎には吹雪の如き険しさがある。

「わしの息子たちはどんな月でも呼び出せるのじゃ。そなたは苺がほしいのじゃろう」

ト、言って老人は再び天井を見上げますト。

「六郎」
「おお」

若者が梁の上からダッと降り立った。

短い筒袖から二の腕を露わに出し。
単衣の丈は尻が見えそうなほどに詰めてあり。
腹のあたりで一本の麻紐を無造作に結んでいる。

まるで夏の小山のそよ風のように。
爽快な好男子でございます。

「お前、この娘さんと一緒に行って、木いちごでも蛇いちごでも、何か採らせてやってこい」
「おお」

ト、答えるやいなや六郎はお雪の手を取った。




お雪は思わずドキリとした、ト申しますのも。
男に触れられたことナド初めてでございますから。
恥ずかしく思って手を引こうトいたしましたが。

六郎の力は思いの外強くございましたので。
握られたまま、後についてお堂を出ていきますト。

外は相変わらずの雪景色ではございますが。
妙なことに雪も風もまるで身に堪えはいたしません。

どうやら若者の体が熱を帯びているようで。
それが、握られた手を通してぬくぬくト。
お雪の総身に広がっているのでございます。

「よし。ここらで良いだろう」

しばらく行ったところで六郎は立ち止まりますト。
お雪から手を離し、己の単衣の胸をサッとはだけまして。
両手で左右の襟を掴み、パタパタと仰ぎ始めました。

するト、たちまち小山のそよ風のような風が起こりまして。
その風がやがて雲を蹴散らし、さらには陽気を呼び起こし。
野原や木々に積もった雪を、次々ト溶かしていきました。

見る見るうちに、辺りは夏の野原に様変わりする。
草木は芽を吹き、花を咲かせ、実を生らせる。

「まあ、苺だわ。こんなにたくさん。あっちにも、こっちにも――」

お雪は嬉しくなってしまいまして。
我を忘れてはしゃいで駆け回り。
あっちの苺、こっちの苺ト。
籠いっぱいに摘んでおりましたが。

ふと気がつくト。
いつの間にやら若者の姿は消えている。

びっくりして、まばたきをしますト。
一瞬にして、辺りは雪野原に戻ってしまった。

籠にはいっぱいに詰まった野いちごの山。

お雪は何だか急に哀しくなりまして。
がっくりうなだれて、雪道をトボトボと帰っていきました。

――チョット、一息つきまして。

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