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苺の六郎、雪の十二郎

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どこまでお話しましたか。
そうそう、六月の申し子の六郎が風を起こして苺をお雪に採らせてやったところまでで――。

お君は籠いっぱいの苺に大喜びいたしまして。
誰に分けてやるでもなく、一人でうまそうに食べている。

その様子をぼんやり眺めながらも。
お雪は心ここにあらずでございまして。
瞼に浮かぶは、かの爽やかな快男児の面影ばかり。

「お雪」
「――はい」
「お前、この苺、本当に雪の中から掘り出してきたんだろうね」

ふとおっかあに呼び戻されて我に返った。

「――はい」
「まさか、よそ様から盗んできたんじゃあるまい」

おっかあは怪しむようにお雪を見る。
お雪はどぎまぎしてうつむいた。

お君はあれだけの苺をもう平らげたようで。

「もっとほしい」

ナドとのたまっている。

「お雪」
「――はい」

おっかあは、お雪をじろりト睨みつけますト。

「お前、また採っておいでよ」
「でも、おっかあ」

お雪はすがるように言いました。

「あれはどこにでもあるわけじゃないの。必ず採れるわけじゃないの」

するト、おっかあは途端に目を剥いて。

「ほら、ごらん。お前、やっぱりよそ様の物を盗んできたんだね。私がちょっと脅したら、急に怖気づきやがって」

ト、火箸を手に取るや頭の上に振りかざしましたので。

「おっかあ、違うの。おっかあ」

お雪はたまらなくなりまして。
老人と十二人の息子たちの話をおっかあに語って聞かせました。

「ええい。出鱈目を言うんじゃないよ。おおかた、その老いぼれの家に、冬に生る苺の木でも生えているんだろう」

おっかあはお雪をひとしきり罵りますト。
お君に綿入れの布子を何枚も重ね着させまして。
己もぶくぶくに着ぶくれするほど着込みはじめましたので。

「おっかあ、どこへ行くの」
「決まってるだろう。その老いぼれの家へ行って、あるだけみな渡せと頼んでくるのさ」
「いけないよ。もう日が暮れるのに。雪に埋もれてしまうよ」




おっかあはお君の手を引きまして。
外へ出ますト、そこは相変わらずの雪野原。
止めるお雪を突き飛ばして、二人して行ってしまった。

お雪はおっかあとお君が心配になり。
立ち上がって、二人の後を追いましたが。

雪に足を取られて、なかなか前に進みません。
かんじきを履いた二人は、ドンドン遠ざかっていく。

するト――。

遠く、点のようになった二人の行く手に。
突然、吹雪が押し寄せたのが見えました。

「おっかあ――、お君――」

吹雪はたちまち二人の母子を取り囲んだ。
白い紗のような吹雪の幕に覆われていく。
二人の姿はもはや見えなくなってしまいました。

――このままでは二人とも死んでしまう。

息が止まりそうなほどに恐怖を感じたその時。
お雪の肩に優しく置かれた手があった。

覚えのあるその温もりに。
ふと振り返って見ますト。
六月の六郎がそこに立っている。

「あれは十二郎兄さんだ」

見るト、おっかあとお君に襲いかかる猛烈なその吹雪の中に。
あの十二郎の険しい眼差しが浮かんでは消えるようでございます。

――このままでは二人とも死んでしまう。

お雪は怖くなって思わず目をつぶった。
ト、もっと恐ろしい考えが、不意に頭を駆け巡りました。

――いや、いっそこのまま死んでくれたら。

そんな己の悪念にゾッと寒気がいたしまして。
救いを求めるように六郎を見上げますト。

六郎はただ穏やかな眼差しで。
お雪の瞳を見つめている。
小さな肩を力強く抱き寄せて。
もと来た道へ向き直らせた。

お雪はその温もりに抗えず。
六郎にそっと身を委ねた。
二人の周りの雪が溶けていく。

背中を押されてお雪は。
初夏の野原と化した山道を。
六郎の腕に抱かれながら。
静かに帰っていったという。

そんなよくあるはなし――。
もとい、余苦在話でございます。

(甲州ノ民話ヨリ)

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